朝鮮を笑う

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斜め上の雲 10

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/02/20 14:18 投稿番号: [1217 / 2847]
  これまでみたように、開戦時の南北の軍事力は懸絶している。
  さらにいえば、韓国軍には備蓄弾薬が数日分もなく、1月に米韓軍事援助相互協定が調印されたものの、それによる軍需物資はまだ到着していなかった。
  李承晩大統領は北進統一をさけんでいたが、とうてい戦争をはじめることができる状態ではなく、500人にもおよぶアメリカ軍事顧問団がそれをみとめることもなかった。
  また、たとえこの状態で北侵したとしても北朝鮮軍は反撃できただろうが、そのまま逆侵攻して、通常装備・兵站のまま米軍をもけちらして半島南端の釜山まで追いつめることができるものではない。
  以上のことから考えて、朝鮮戦争は北がじゅうぶんに準備したうえでの南侵からはじまったことはうたがえない。

  北朝鮮軍はソ連製のT34戦車を前面におしたてて進撃してきたが、韓国軍に戦車はなく、対戦車兵器もとぼしかった。アメリカ軍の持ちこんだ3.5インチバズーカだけがまともに戦車を撃破できたが、数もすくなく苦戦をしいられている。
  錫元はこれほど大量の戦車をみるのははじめてである。太平洋戦争の末期、釜山ではたらいている父信五のもとに遊びにいったとき、日本軍の戦車を数輌見たことがあるだけである。
  その戦車集団は、砲塔が民家の軒先をかすめるような狭い路地をふらふらとさまよいながら進んでおり、あきらかに道に迷っていた。
  錫元と信五の前で隊列がとまり、先頭車輌のハッチが開いて軍人がおりてきた。
「西面はどこかいな?」
  眼鏡をかけたその軍人はたよりなさげな口調できいてきた。信五が場所を教えると、礼をいって車内に戻り、行進を再開した。
「だいじょうぶかな。あんな将校で」
  階級章をみると少尉だったらしい。信五がためいきをついたのを錫元はおぼえている。

  そのときみた戦車は、腰高で優雅な感じではあったが砲身が細く短く、少尉同様たよりなさげであった。
  それにくらべて北朝鮮のT34は、無骨きわまりない外見であるが、そのぶんたくましくみえる。金錫源にそれをいうと、
「T34はいい戦車だ。ドイツもあれにかなりやられた。釜山でみたというのは関東軍のチハ車だろう。戦車どうしのたたきあいはできないシロモノだった。もっとも」
  歩兵戦闘の補助が目的なのでしかたのないことだったが、とつづけた。
「将軍は敵の戦車をほめるのですか」
  錫元は意外そうにききかえした。
「敵であろうがなんであろうが、性能のよいものはよい、悪いものは悪い。錫元はウリナラが好きか?」
「はい。好きです」
「ならば、ウリナラが世界でいちばんすぐれて大きい国とおもうか?」
  すこしためらったあと、錫元は答えた。
「・・・いいえ。おもいません」
「それと同じことだ。好き嫌いと良し悪しはべつの問題だ」
  軍人にとってもっとも忌むべきことは、目の前の事象に手前勝手な規定をあてはめて納得するという硬直性だ、ともいった。
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