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(略、3〜11)「〜60年目の夏(12)」

投稿者: usagigamemaimai 投稿日時: 2004/09/01 00:11 投稿番号: [1597 / 7270]
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                     99年07月03日

■■   ノモンハン・60年目の夏(12)   ■■   作家   岩田玲文

▼   冬そしてノモンハン   ①   ▼

死んだら星になり天へ

大地に寝ころび見つめる
  なぜ死んだと   寒芒にまた独り言


  寒芒が、季語になるのかどうかよく分からないが、冬の夜空に、寒そうに瞬いている星が、寒芒である。子供の頃の一時期私は、人は死んだらいつか星になって天に帰るのだと信じていて、あの人はあの星、この星、と懸命になって探したことがあった。ふとそのことを想い出して、私は車を停めてもらい草原に立った。

  そして、うすく雪の降り積もった大地に、仰向けに寝ころんで寒天を見た。ツェルン村からウランバートルへ帰る道すがらのことだ。オクトの死に、いささか尋常心を失っていたのか、そんなことはないと思うが、背中の雪が、刻々体温を奪って行くのを覚えながら、格別のことを思うでもなく、ただ私は天を見つめた。

  (オクトの奴は、モンゴルからの電報がそう簡単には私のところに届かないことを知っていた筈なのに、なぜ電報を打ってくれって言ったのだろうか、私に何を伝えたかったのだろうか、それにしても、電文は一体何語で打ったのだろう…)

  身近に雪の軋む音を聞いて、私は頭をもたげた。いつの間に来たのか、足許のところにブルガンが私と同じように、仰向けになって寝ころんでいた。しばらく、私たちは黙って天を見ていた。

  光も音も色も、すべて純粋に冴えていた。それにしても寒い−寒極って水が凝る寒さを(寒冱)というが、もうとっくに零下二十度を越しているのだから(寒冱)ではなかろう。厳寒、酷寒、極寒、祁寒…私は知る限りの、それなりの言葉を探したが、ぴったりこれというものはなかった。とにかく素適な寒さというよりない寒さに、私は震えた。

  「おい風邪を引くぞ、車に戻っていなさい」声を掛けるとブルガンは、

  「大丈夫です、私はブリヤート人ですよ、それに貴方の活力源、仙人力にんにく卵黄を二粒づつ飲んでいますから、風邪など飛んで行けです」

  とおどけた口調で答えた。そのとき風が吹いて、雪が舞った。舞った雪は周りをすっぽり包んで、風に連れ去られて行った。

  「貴方のあの『怪談』の雪女のシーンに似ていますね。舞っている雪の中から雪女が姿を見せてくれそうな感じ…」

  ブルガンが(貴方のあの怪談)と言ったのは、映画『怪談』の製作に私が係わっていたのを知っていたから、そう言ったのである。

  「私は子供のころね、人は死んだら星になって天に戻るんだと思っていた。だから、こんな可愛いい妹は世界中にいない、と思っていたその妹が死んだとき、夜になると妹の星を探して庭に立ちつくした。その頃の日本の空はモンゴルの空に負けないくらいに美しかった…」

  「見つかりましたか?」

  「うん見つかった。でも今はそれがどの星だったのか、どうしても想い出せないのだ。なにせ半世紀も前のことだから…」

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