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巡査の居る風景一の1

投稿者: monju_jz 投稿日時: 2006/06/15 14:44 投稿番号: [2898 / 3669]
中学時代をソウルで過ごしたことのある中島敦の短編−巡査の居る風景−を紹介します。
場所は1923年のソウル。ある朝鮮人巡査の眼を通して、街のスケッチとともに朝鮮人であることの悲しみを描いています。

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巡査の居る風景
中島敦

―   一九二三年の一つのスケッチ   ―



  甃石には凍った猫の死骸が牡蠣のようにへばりついた。その上を赤い甘栗屋の広告が風に千切れて狂いながら走った。
  町角には飲食店の屋台が五つ六つかたまって盛に白い湯気を立てて居た。赤黒くカチカチに固くなった乳房を汚れたツルマキの上から出した女が一人、その前に立って湯気を吹きながら真赤に唐辛子をかけた饂飩を啜って居た。
  署から帰ろうとして巡査の趙教英は電車を待ちながら、それをぼんやり眺めて居た。彼の前を急いで二人の浅黄服を着た支那人が、天秤棒をかついで過ぎて行った。彼等の籠の中には売れ残りの大根が白く光って居た。そろそろ潮の様に人混みが出始める頃であった。薄氷を張った様な暮方の空の下で、仏蘭西教会の鐘が寒む寒むと響き出した。
  趙教英は寒そうに鼻をすすって首を縮めると、制服の詰め襟の前を一度かけなおして電線の青白い火花を見上げた。その電車が行って了った後の線路を背の高い男が一人大股に歩いて来た。彼の署の課長であった。彼が恭しく敬礼すると、其男も鷹揚に一寸手を挙げて、又人混みの中に紛れ込んで了った。

  電車に乗ると、職業上無料の彼はいつもの様に運転手台に立って、両手をズボンのポケットにつっこんだ儘、硝子に倚りかかった。彼は電車に乗る度に屹度一人の日本人の中学生のことを思い出すのだ。………ある夏の朝だった。署に出る途中彼がいつもの運転手台に立って居ると、登校の途中の其中学生が乗り込んできたのだ。そして多分涼しい風にあたりたい為らしく、其中学生は運転手台に立って居て中に入らなかった。が、元来立つべき所ではなし、運転の邪魔にもなるというので、運転手は中学生に中に入ってくれと言ったのだ。所が彼は傲然として運転手に喰ってかかった。
「オイ、其の人を。」と、中学生は其処に立って居た巡査の彼を指さして、
「其の人を中へ入れないんなら、俺もいやだよ。」――(勿論、其の運転手も朝鮮人であるからなのだ。)――そして当惑した運転手と巡査との顔を面白そうに見比べながら其処に立続けたのであった………。彼は今も此の中学生の目付を思い出して不愉快に思った。
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