筒井筒
投稿者: sennin_4012 投稿日時: 2002/10/31 20:36 投稿番号: [1281 / 3669]
二十三段
むかし、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でてあそびけるを、大人になりにければ、おとこも女も、恥ぢかはしてありけれど、おとこはこの女をこそ得めと思ふ、女はこのおとこをと思ひつゝ、親のあはすれども、聞かでなんありける。さて、この隣のおとこのもとよりかくなん。
筒井づつの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
女、返し、
くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰があぐべき
などいひいひて、つゐに本意のごとくあひにけり。
さて、年ごろ経るほどに、女、親なくたよりなくなるまゝに、もろともにいふかひなくてあらんやはとて、河内の国、高安の郡に、いきかよふ所出できにけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出しやりければ、おとこ、異心ありてかゝるにやあらむと思ひうたがひて、前栽の中にかくれゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらん
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へもいかずなりにけり。
まれまれかの高安に来て見れば、はじめこそ心にくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいゐがひとりて、笥子のうつわ物に盛りけるを見て、心うがりていかずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり見つゝを居らん生駒山雲なかくしそ雨は降るとも
といひて見いだすに、からうじて、大和人来むといへり。よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬ物の恋ひつゝぞふる
といひけれど、おとこ住まずなりにけり。
これは メッセージ 1 (violla_21 さん)への返信です.
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