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若者たちに贈る「本当の東京裁判」(5)2/3

投稿者: rachi_yamero 投稿日時: 2005/06/23 01:58 投稿番号: [206977 / 232612]
  最後に、インド代表のラダ・ビノード・パル判事。彼の意見書は英文二十五万語、日本語訳文千二百十九ページという、膨大な量に及ぶ。

  内容は、哲学・法学・歴史的深い見識と、豊富な実例・引例を盛り込んだ雄大なものである。多数派による判決の否定はもちろん、東京裁判そのものの違法性と非合理さを追究した。判事は、東京裁判で適用すべき法とはいったい何を指すのか、と問いかける。

「国際法に違反せる裁判所条例は、絶対に許されない。それがまかり通るとすれば、越権もはなはだしいと言わねばならない。この重要な問題点に、いささかの考慮も払われず、この裁判所条例によって行動するよう任命されている限り、最高司令官が権限を超えているや否やの点を審理する権利はない、などと主張する多数判決に、私は承服するわけにいかない」

  彼は断言する。裁判所条例といえども、国際法からの逸脱は許されないと。国際社会にあって戦争は、これまで同様、法の圏外に置かれるべきである。世界は今まで、何度となく戦争を繰り返してきた。この人間の持つ宿命的な業である戦争そのものは法の圏外と見なすほかない、という。

「ひとつの国が、他国を征服しようと計画し、そのための準備を行い実行することは、最悪の犯罪である。異議を差しはさむものではない。だが、第二次大戦前に列強が、そのような意図をもって戦争を企画し準備したという汚点を、はたして持っていなかった、と断言し得るだろうか。いずれの強国も過去に、その汚点を残してきているにもかかわらず、第二次大戦だけがどうして犯罪なのか、私は理解に苦しむ」

  イギリスの苛酷な植民地支配に、長年さらされてきたインド代表判事は、戦勝国の過去を痛烈に批判。知らぬ存ぜぬは、まかり通らないぞと説く。

  次いでパル判事は、アメリカが広島と長崎に原爆を投下した残虐極まる行為と、約束を踏みにじり、火事場泥棒よろしく満州を攻撃し、略奪の限りを尽くしたソ連を暗に弾劾する。また、彼は、この裁判に提出された各種の証拠といわれるものにも言及。

「木戸日記はともかく、その他はすべて伝聞証拠であって、例えば共同謀議にしても、何ひとつ直接これを証明するものはない」

  彼は明言する。そして判事は、被告たちは共同謀議者ではなかった。彼らは、共同謀議を行わなかった。証明する直接の証拠はひとつもない、と断定した。さらに最重要点、日本の対米英開戦についても舌鋒鋭く論じる。

「イギリス並びにアメリカの国民政府援助は、対日経済封鎖とともに中立の義務を無視した行為であって、国際法が非交戦国に課した義務の放棄といえる。

  また、真珠湾攻撃の直前に、アメリカ国務省が日本政府に送ったものと同様の通牒を受け取った場合、モナコ公国やルクセンブルク大公国であっても、武器を取ってアメリカに立ち向かうだろう」

  ハル・ノートのようなものを突きつけられたら、どんな小国でさえ独立国の名誉にかけ、矛を取って立ちあがるだろうという。判事は、東條以下七名を絞首刑と宣告した訴因五十四と五十五、すなわち残虐行為の認定についても、真っ向から否定。

「彼らに、捕虜虐待や残虐行為を命令したり、許可を与えた証拠がまったくない。いま一方は、それを誰が命令し誰が行ったかまで、はっきりしているではないか」

  一方とは、アメリカである。原爆製造の科学者たちが、もし使用するようなことがあれば、アメリカの歴史に永久に汚点を残すだろう、と使用中止を強く求める請願を行った。しかしトルーマンは、すでに焦土の日本に、大量無差別兵器の投下を命令。広島・長崎は、一瞬のうちに消えた。そんな野蛮な国が、残虐行為を裁く資格があるというのか、と辛辣に追及する。

  そして、彼は結論づける。

「全被告は、起訴事実全般について、無罪と認定されねばならない。また、すべての起訴事実から免除されるべきである、と強く主張する」

  彼は、論告文のなかで訴えた。パル判事の意見書が法廷で朗読されていたなら、衝撃は多大だったと思われる。

「マッカーサーは、東京裁判がどのような関係に置かれねばならないのかという点や、将来の国際社会に、どのような影響を及ぼすかという重要な問題には、いっさい考慮を払わず、自分の意思、言い換えれば連合国という名の、アメリカの思惑だけを至上命令としたといえる……。

  東京裁判は、戦勝国だけが集まって、しかもその執行が法のなんたるかを知らない、一職業軍人の勝手な解釈・恣意で行われたのであるから、これほど国際法を侮辱し不正で虚偽に満ち、思いあがった行為は、古今無類といわねばならない」

  パル判事は、心情を吐露する。国際法の世界的権威は、忸怩たる思いでいっぱいだったに違いない。
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