各界各層へ働きかけ、革命勢力を糾合しようという北の対南政策の極意は、北朝
鮮では「セメント戦術」と呼ばれる。
「韓国には反政府、反米の人間が数多くいる。彼らをいかにセメントのように固
めて強力にするか、という意味だ」(韓国情報関係者)
セメント戦術で最も知られるのが、一九九二年に韓国国家安全企画部(現国家情
報院)が摘発し、約三百六十人のスパイ網を暴いた李善実事件だ。日本を経由して
韓国に潜入した北朝鮮の大物女スパイ・李善実(当時七十歳)が十年にわたる潜伏
中に地下党「南韓・朝鮮労働党」を組織し、活動家五千人に影響を及ぼしていた。
海路で北朝鮮に脱出、摘発を逃れた李善実が実は序列二十二位の政治局員候補だっ
たことも当時、韓国国民を驚かせた。
しかし、南北首脳会談(二〇〇〇年六月)以降の南北接近の中で、韓国国民の意
識は大きく変化した。
盧武鉉政権が昨秋、「民主活動家」として帰国を許可した在独の大学教授、宋斗
律はその後、スパイ容疑の国家保安法違反で逮捕され、裁判(一審)では朝鮮労働
党政治局員候補(序列二十三位)の対南工作員「キム・チョルス」と認定された。
だが、玄関から“堂々と”大物スパイが入ってきたことにいまの韓国社会は驚く
こともない。判決後も革新陣営は宋斗律を「南北統一闘争の英雄」として救援活動
を続けている。
二〇〇四年元旦、「労働新聞」など北朝鮮の公式報道機関三紙は、「いかなる外
部勢力もわが民族を絶対に分け隔てることはできない。反米自主、民族共助は阻む
ことのできない時代の流れとなっている」とする共同社説を掲載した。
「この民族共助こそセメント戦術だ」と韓国の情報担当者は指摘する。対南工作
四十年余を経た北朝鮮はいま、正面から韓国国民に「全民族的(革命)闘争」を語
りかけるようになったのだ。(ソウル
久保田るり子)
≪宋斗律(ソン・ドゥユル)≫
韓国系ドイツ人としてドイツに長年、滞在。社
会学者の一方、「民主化運動活動家」として1970年代から韓国の民主化運動を
外から展開。73年ごろから22回にわたり訪朝したとされる。朝鮮労働党への入
党や故金日成主席との記念写真撮影などで、親北朝鮮的な人物とみられていた。昨
年10月に永住のため37年ぶりに帰国。逮捕時は59歳だった。
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