ソウル13
投稿者: k_g_y_7_234 投稿日時: 2006/11/03 22:23 投稿番号: [5917 / 73791]
女将が盆を持って調理場から出てきた。真っ赤ないかにも辛そうなキムチと月のようにばかでかい黄色いタクワンの輪切りを山ほどもってきた。
女将はキムに何か言いながらキムチとタクアンで山盛りの皿をテーブルに置くと、盆を抱えたまま立膝で私をしげしげと見ておるから、私も「何かな?」とばかりに見返えした。すると、
「キタムラさん、ゲンキですか?」
頼りない日本語で聞いてきた。
「ほう..」と思いながら女将を見た。
「キタムラさん、もう昔々にきてない。いい人。おサケがたくさん飲む人デス..」
「アッハハハ」
女将のこの突然の日本語に、それも真面目な顔してそう言うもんだから、思わず北村の酒焼けした赤い鼻を想い出して笑ってしまった。女将は、私をキョトンとした顔付きで見ている。いかにも人が良さそうな顔である。
「北村は元気じゃよ。何か、キムと一緒によくこの店に来ていたとか...」
「毎晩、毎晩、きてました..」
女将はそう言うとキムに意味ありげな視線を投げた。しかし、キムはと見ると、ただしきりに恐縮しているような素振りである。
「日本語がお上手だが、女将が日本語を話すとは...」
そう聞いてから「ありきたりの質問してしもうた..」とは思ったが、意外にも、女将の表情が恥じらぐのが分かった。歳に似合わず若い娘のような表情である。
「北村さんから、オシエました..」
どうやら北村とは懇意の仲であるらしい。どんな仲なのか興味が湧いたが、このとき調理場から従業員の女が女将を呼んだ。女将はキムとハングルで何かしら話すと、私に一目して調理場へ去った。
北村とは、私が赴任してまもなくの宴会で逢った。珍しく料亭の宴会で主だった役員と社員が数十名ほどいたが、末席に何か不満でもあるかのような目つきで私を睨んでおる頑丈な体付きの若い男がおった。芸奴も何人か入っていたが、その中に私と顔見知りなのがおって、彼女をはじめ、他の芸奴たちも社長や専務そっちのけで私のところに入れ替わり立ち替わり来るもんだから、社員全員がまだ評判だけの私に注目しておった。天下りであるから仕方が無いと言えば仕方がないが、社長をはじめ、他の役員連中をさておいてまるで私がこの席の主賓であるかのような雰囲気であった。
さすがの私も彼の芸奴に「私はよいから、他の連中を頼む」と言ったが、雰囲気だけはごまかしようがない。そんなことも手伝ってか、社長も他の役員連中も何気ない素振りではあったが、私の品定めに余念がないらしい。とにかくそんな雰囲気であった。
宴も進み、ほどよく酔いが回ってきた頃に、あの若い男が銚子を持って私の前にくるなり、ドカッとばかりにあぐらをかきおった。他の連中、社長も役員も私にお酌にくると正座してかしこまっておったが、この男の場合は、明らかに私に敵愾心むき出しであった。年の頃は若いとは言ってももう30代の後半であろう。役員連中に混じって、まだこの若さでこの宴席に呼ばれておるからには何か取り柄のある男であろう、そう思っておった。
自分で注いだ盃を飲み干すと、それを私に差し出し「さあ、飲め」という。「この男、酔ったか..」と思ったが、目は鋭く澄んでおった。
「ほう、この会社にもこんな男がおるのか..」
そう思って盃を受けようとしたときに、彼の上司らしい男が飛んできて彼を背後から羽交い締めにし、私にすまなそうに一目礼をすると彼を連れ去った。
これが北村との初対面である。後日談ではあるが、北村は天下りの私が気に入らんかったらしい。実力も実績もないのに役員になった私が気に入らん。芸奴にもてる私、ま、そう思っておるが、が癪に触ったらしい。しかし、私がたいしたことをせんでも、その後国の仕事が増え、これを利益云々よりもプロの仕事として会社がしっかりこなしたから、業績は上がった。
北村は、私が彼を韓国に送ったことを最初は恨んだらしい。がしかし、彼は韓国のK社の実状とキムを見て、彼本来の闘争本能に火がついたと言っておった。彼は柔道の強者である。私は剣道であるが、強者は強者を知る、そんな阿吽の呼吸があった。そしてK社は大きく生長した
女の従業員が木の小鉢に入れた白い飲み物を2つ持ってきた。
○爺
女将はキムに何か言いながらキムチとタクアンで山盛りの皿をテーブルに置くと、盆を抱えたまま立膝で私をしげしげと見ておるから、私も「何かな?」とばかりに見返えした。すると、
「キタムラさん、ゲンキですか?」
頼りない日本語で聞いてきた。
「ほう..」と思いながら女将を見た。
「キタムラさん、もう昔々にきてない。いい人。おサケがたくさん飲む人デス..」
「アッハハハ」
女将のこの突然の日本語に、それも真面目な顔してそう言うもんだから、思わず北村の酒焼けした赤い鼻を想い出して笑ってしまった。女将は、私をキョトンとした顔付きで見ている。いかにも人が良さそうな顔である。
「北村は元気じゃよ。何か、キムと一緒によくこの店に来ていたとか...」
「毎晩、毎晩、きてました..」
女将はそう言うとキムに意味ありげな視線を投げた。しかし、キムはと見ると、ただしきりに恐縮しているような素振りである。
「日本語がお上手だが、女将が日本語を話すとは...」
そう聞いてから「ありきたりの質問してしもうた..」とは思ったが、意外にも、女将の表情が恥じらぐのが分かった。歳に似合わず若い娘のような表情である。
「北村さんから、オシエました..」
どうやら北村とは懇意の仲であるらしい。どんな仲なのか興味が湧いたが、このとき調理場から従業員の女が女将を呼んだ。女将はキムとハングルで何かしら話すと、私に一目して調理場へ去った。
北村とは、私が赴任してまもなくの宴会で逢った。珍しく料亭の宴会で主だった役員と社員が数十名ほどいたが、末席に何か不満でもあるかのような目つきで私を睨んでおる頑丈な体付きの若い男がおった。芸奴も何人か入っていたが、その中に私と顔見知りなのがおって、彼女をはじめ、他の芸奴たちも社長や専務そっちのけで私のところに入れ替わり立ち替わり来るもんだから、社員全員がまだ評判だけの私に注目しておった。天下りであるから仕方が無いと言えば仕方がないが、社長をはじめ、他の役員連中をさておいてまるで私がこの席の主賓であるかのような雰囲気であった。
さすがの私も彼の芸奴に「私はよいから、他の連中を頼む」と言ったが、雰囲気だけはごまかしようがない。そんなことも手伝ってか、社長も他の役員連中も何気ない素振りではあったが、私の品定めに余念がないらしい。とにかくそんな雰囲気であった。
宴も進み、ほどよく酔いが回ってきた頃に、あの若い男が銚子を持って私の前にくるなり、ドカッとばかりにあぐらをかきおった。他の連中、社長も役員も私にお酌にくると正座してかしこまっておったが、この男の場合は、明らかに私に敵愾心むき出しであった。年の頃は若いとは言ってももう30代の後半であろう。役員連中に混じって、まだこの若さでこの宴席に呼ばれておるからには何か取り柄のある男であろう、そう思っておった。
自分で注いだ盃を飲み干すと、それを私に差し出し「さあ、飲め」という。「この男、酔ったか..」と思ったが、目は鋭く澄んでおった。
「ほう、この会社にもこんな男がおるのか..」
そう思って盃を受けようとしたときに、彼の上司らしい男が飛んできて彼を背後から羽交い締めにし、私にすまなそうに一目礼をすると彼を連れ去った。
これが北村との初対面である。後日談ではあるが、北村は天下りの私が気に入らんかったらしい。実力も実績もないのに役員になった私が気に入らん。芸奴にもてる私、ま、そう思っておるが、が癪に触ったらしい。しかし、私がたいしたことをせんでも、その後国の仕事が増え、これを利益云々よりもプロの仕事として会社がしっかりこなしたから、業績は上がった。
北村は、私が彼を韓国に送ったことを最初は恨んだらしい。がしかし、彼は韓国のK社の実状とキムを見て、彼本来の闘争本能に火がついたと言っておった。彼は柔道の強者である。私は剣道であるが、強者は強者を知る、そんな阿吽の呼吸があった。そしてK社は大きく生長した
女の従業員が木の小鉢に入れた白い飲み物を2つ持ってきた。
○爺
これは メッセージ 5808 (k_g_y_7_234 さん)への返信です.