ソウル12
投稿者: k_g_y_7_234 投稿日時: 2006/11/03 01:27 投稿番号: [5808 / 73791]
ドアを開けてくれた男は、長身でなかなかの好青年である。空港にいた青年であった。
青年はうやうやしく車のドアを開けたが、何気なく合った視線は私を鋭く射ていた。
「キムの側近のようじゃが、なかなか気の強そうな男じゃな。キムの若い頃によう似ておるわい」
そう思った。
数階建ての古い雑居ビルの一階にそのレストランはあった。真っ赤なハングル文字を大書きした看板を店の軒いっぱいに掲げてあって、窓という窓には、たぶん料理の名前であろうか、ハングル文字がところ狭しとばかりに書いてあって、外観からしていかにも安食堂といった構えである。
「先生、こんなところですがいいですか?」
「かまわんよ。何か旨いものがあるかな?」
キムは一瞬苦笑いしていたが、すぐに店の方に目をやると、
「ああ、昔のまんまです、何もかわっていない..」
いかにも懐かしそうである。
店の入口から一人の女が満面に笑みをうかべながらゆっくりとした足取りで出てきた。歩くのが多少不自由なようである。小太りでもう六十は過ぎているのであろうか、白髪が目立ち、顔には生活を伺わせるシワが深く刻まれていた。女はキムとしばし抱き合っていたが、今度はキムの女房とも抱き合い、そして子供たちの前へ行っては、手でこんなに小さかったのにというような仕草をしていた。どうやらキムは家族連れでこの店に来ていたらしい。やがて女は、キムの手招きで私を見ると丁寧にお辞儀した。
「ほう、やさしい目をしておるな」
これが私の第一印象であった。キムは、この店の女将であると紹介した。
店の中に入ると、すぐに下足箱のある玄関になっていて、下足を脱いで一段と高い板張りの床に上がるようになっていた。板の間には、低いテーブルが左右と真ん中に奥の調理場に向けて並べてあり、家族連れの客も含めて十数人ほど入っていた。ま、三十人も入れば一杯になるような店であった。
我々のテーブルは、一番奥で、壁側の奥に座椅子が一つ置いてあった。他は粗末な煎餅座布団である。キムは座椅子を少し引くと、私に座るように手招きした。私の右側にヒョギョンが座り、向かい側にキムが座った。女房とヒョクは入口側に座った。若い女たち数人が客の注文を忙しく運んでいる。
「先生、特に食べたい物がありますか?」
「いやあ、実は韓国料理は..、焼き肉とクッパ、それにキムチぐらいしか知らんのじゃよ」
私のこの言葉をキムはさっそく家族に通訳したらしい。急にヒョギョンも女房も笑い始めた。気むずかしそうな顔のヒョクまでもハングルでなにやらしきりに話している。
「じゃあ先生、注文は私たちに任せてください。この店は、こうみえても結構うまいいんですよ。それに安いし、北村さんも結構気に入っていましたから..」
「ん? あまり辛いもんとか、脂っこいもんはちと苦手じゃが..」
「いろいろたのみますから、お口に合うものだけお食べください、いいですか?」
「わかった、まかせよう。ところであれはドブロクかな?」
私が調理場の入口に陳列してある白い液体の入ったビンを指差すと、キムは振り向いて見て、
「ああ、あれはマッコリと言うんです」
「韓国のドブロクか?」
「ええっと、日本のドブロクというのは聞いたことがあるんですが..、飲んだことがありません。濁り酒なら飲んだことあります。マッコリは、濁り酒とはちっと違ってヨーグルトの酸っぱい味がしますよ。アルコール分も弱いんです。こっちでは一番普通のお酒ですが、それでもお飲みになりますか?」
「そうじゃな、ためしてみたい」
キムはどうしてこんな酒を私が飲むのか怪訝な顔をしていたが、しかたがないと言った顔で店の女に注文した。
女将が盆を持って調理場から出てきた。真っ赤ないかにも辛そうなキムチと月のようにばかでかい黄色いタクワンの輪切りを山ほどもってきた。
爺
青年はうやうやしく車のドアを開けたが、何気なく合った視線は私を鋭く射ていた。
「キムの側近のようじゃが、なかなか気の強そうな男じゃな。キムの若い頃によう似ておるわい」
そう思った。
数階建ての古い雑居ビルの一階にそのレストランはあった。真っ赤なハングル文字を大書きした看板を店の軒いっぱいに掲げてあって、窓という窓には、たぶん料理の名前であろうか、ハングル文字がところ狭しとばかりに書いてあって、外観からしていかにも安食堂といった構えである。
「先生、こんなところですがいいですか?」
「かまわんよ。何か旨いものがあるかな?」
キムは一瞬苦笑いしていたが、すぐに店の方に目をやると、
「ああ、昔のまんまです、何もかわっていない..」
いかにも懐かしそうである。
店の入口から一人の女が満面に笑みをうかべながらゆっくりとした足取りで出てきた。歩くのが多少不自由なようである。小太りでもう六十は過ぎているのであろうか、白髪が目立ち、顔には生活を伺わせるシワが深く刻まれていた。女はキムとしばし抱き合っていたが、今度はキムの女房とも抱き合い、そして子供たちの前へ行っては、手でこんなに小さかったのにというような仕草をしていた。どうやらキムは家族連れでこの店に来ていたらしい。やがて女は、キムの手招きで私を見ると丁寧にお辞儀した。
「ほう、やさしい目をしておるな」
これが私の第一印象であった。キムは、この店の女将であると紹介した。
店の中に入ると、すぐに下足箱のある玄関になっていて、下足を脱いで一段と高い板張りの床に上がるようになっていた。板の間には、低いテーブルが左右と真ん中に奥の調理場に向けて並べてあり、家族連れの客も含めて十数人ほど入っていた。ま、三十人も入れば一杯になるような店であった。
我々のテーブルは、一番奥で、壁側の奥に座椅子が一つ置いてあった。他は粗末な煎餅座布団である。キムは座椅子を少し引くと、私に座るように手招きした。私の右側にヒョギョンが座り、向かい側にキムが座った。女房とヒョクは入口側に座った。若い女たち数人が客の注文を忙しく運んでいる。
「先生、特に食べたい物がありますか?」
「いやあ、実は韓国料理は..、焼き肉とクッパ、それにキムチぐらいしか知らんのじゃよ」
私のこの言葉をキムはさっそく家族に通訳したらしい。急にヒョギョンも女房も笑い始めた。気むずかしそうな顔のヒョクまでもハングルでなにやらしきりに話している。
「じゃあ先生、注文は私たちに任せてください。この店は、こうみえても結構うまいいんですよ。それに安いし、北村さんも結構気に入っていましたから..」
「ん? あまり辛いもんとか、脂っこいもんはちと苦手じゃが..」
「いろいろたのみますから、お口に合うものだけお食べください、いいですか?」
「わかった、まかせよう。ところであれはドブロクかな?」
私が調理場の入口に陳列してある白い液体の入ったビンを指差すと、キムは振り向いて見て、
「ああ、あれはマッコリと言うんです」
「韓国のドブロクか?」
「ええっと、日本のドブロクというのは聞いたことがあるんですが..、飲んだことがありません。濁り酒なら飲んだことあります。マッコリは、濁り酒とはちっと違ってヨーグルトの酸っぱい味がしますよ。アルコール分も弱いんです。こっちでは一番普通のお酒ですが、それでもお飲みになりますか?」
「そうじゃな、ためしてみたい」
キムはどうしてこんな酒を私が飲むのか怪訝な顔をしていたが、しかたがないと言った顔で店の女に注文した。
女将が盆を持って調理場から出てきた。真っ赤ないかにも辛そうなキムチと月のようにばかでかい黄色いタクワンの輪切りを山ほどもってきた。
爺
これは メッセージ 5782 (k_g_y_7_234 さん)への返信です.