ユギオII - その25
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/05/07 20:20 投稿番号: [55259 / 73791]
投稿者:チー
<その25>
入口を入ると、すぐリビングになっていて、その右にはベッドが2つある寝室となっていた。他にトイレ兼バスルームがあった。女中尉はひととおり、部屋の様子を説明すると、
「冷蔵庫にお飲み物が入っていますから、ご自由にお飲みください。ハン次官さんからです..」
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべた。カンは、女中尉のこの言葉に初めて笑みを浮かべた。「ハンもなかなかやるな..」と三枝は思った。
ハンは、かって三枝と同じ調査官でお互い旧知の仲であった。ところがハンは李政権に重用され次官に出世したが、三枝は相変わらず調査官のままであった。調査官とは聞こえはいいが、実態は一介の諜報員である。決して表舞台に立つことのない身分であったが、今回の任務は武原首相直々の指名であるとのこと。また、韓国側も担当がまったく違うハンを、それも高級官僚である次官のハンをわざわざ今回担当させていた。李大統領直々の命令かも知れないと三枝は推測した。米軍側からもいきなり高級将校である大佐を担当させたことには、日本政府からしかるべき根回しがあったものと推測できた。しかし、三枝は「北からの密使を厳重警護せよ」との内閣府危機管理室長の口頭辞令以外、事情は一切聞かされていなかったのである。
「まもなくお夕食をお持ちします」
そう言うと、女中尉は部屋から出て行った。
女が出て行くと、カンは部屋中をチェックし始めた。花瓶をひっくり返したり、電話機の裏を見たり、机や椅子の下、ベッドの下、トイレやバス、鏡など、念入りにチェックしていた。三枝も念のためチェックした。電話機は切断されていた。リビングからベランダを介して庭が見えるガラス戸は二重になっていたが、外側のガラス戸は開かなかった。天井にも壁にも監視カメラらしきものは無く、家具調度品にも盗聴器らしきものはなかった。
「カンさん、そう神経質にならなくてもいいんじゃないかな? さしつかえのある話をしなければいいだけのこと。明日に備え、まずゆっくりしようじゃないですか?」
三枝のこの言葉に、カンは照れ笑いを浮かべた。三枝は、彼の童顔のような照れ笑いに思わず親近感がこみ上がるのを覚えた。
三枝は、バスにお湯を入れた。
「まず風呂にでも入って、さっぱりしようじゃないですか、ん?」
カンは、同意した。カンを先に入れ、三枝は後から入った。ヴィラの入口と周囲には監視兵が配置されていたから、カンを一人にしても問題はなかろうと判断した。湯船につかいながら、三枝はこれからのことを思案した。すると、ふいに榊原老人のことが脳裏をよぎった。榊原老人は、かって三枝が剣道の腕を磨いた榊原道場の主である。また武原首相は、榊原老人が一時政界に在籍していたころの懐刀であった。今回の件は、榊原老人が公安時代に宿敵とした総連の大物、カン老人との再会が発端であるという。こんな大それたことが、単なる想定でしかなかったことが、果たして起こり得るのだろうか? カンの話が本当であれば、この東アジア、いや、へたをすれば米国、中国、そしてロシアを巻き込んだ第三次世界大戦、核戦争にまで発展するかも知れない歴史の狭間に、まさに自分が置かれていると思うと身震いした。
三枝が風呂から上がると、あでやかな韓服に着替えた先程の女中尉がリビングテーブルに食事を用意していた。鍋料理であった。ビールと焼酎も用意されていた。
「やあ、ご馳走だね」
と三枝が女中尉に言うと、
「ハン次官様からのおごりです..」
と言って、くったくのない笑顔を浮かべた。しかし、カンはと見ると、何やら緊張した面持ちである。
三枝がテーブルに座っても、カンは考え込んだように箸もスプーンも取ろうとはしない。女中尉がビールがいいか、焼酎がいいかを聞いたが、カンは返事すら口ごもんだ。
「まずビールで行こうじゃないか?」
三枝がそういうとカンはうなずいた。女中尉がそそいだグラスのビールで乾杯し、三枝は一気に飲み干した。それにつられるようにカンも飲み干した。カンはいかにもうまそうな表情を見せた。
<その25>
入口を入ると、すぐリビングになっていて、その右にはベッドが2つある寝室となっていた。他にトイレ兼バスルームがあった。女中尉はひととおり、部屋の様子を説明すると、
「冷蔵庫にお飲み物が入っていますから、ご自由にお飲みください。ハン次官さんからです..」
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべた。カンは、女中尉のこの言葉に初めて笑みを浮かべた。「ハンもなかなかやるな..」と三枝は思った。
ハンは、かって三枝と同じ調査官でお互い旧知の仲であった。ところがハンは李政権に重用され次官に出世したが、三枝は相変わらず調査官のままであった。調査官とは聞こえはいいが、実態は一介の諜報員である。決して表舞台に立つことのない身分であったが、今回の任務は武原首相直々の指名であるとのこと。また、韓国側も担当がまったく違うハンを、それも高級官僚である次官のハンをわざわざ今回担当させていた。李大統領直々の命令かも知れないと三枝は推測した。米軍側からもいきなり高級将校である大佐を担当させたことには、日本政府からしかるべき根回しがあったものと推測できた。しかし、三枝は「北からの密使を厳重警護せよ」との内閣府危機管理室長の口頭辞令以外、事情は一切聞かされていなかったのである。
「まもなくお夕食をお持ちします」
そう言うと、女中尉は部屋から出て行った。
女が出て行くと、カンは部屋中をチェックし始めた。花瓶をひっくり返したり、電話機の裏を見たり、机や椅子の下、ベッドの下、トイレやバス、鏡など、念入りにチェックしていた。三枝も念のためチェックした。電話機は切断されていた。リビングからベランダを介して庭が見えるガラス戸は二重になっていたが、外側のガラス戸は開かなかった。天井にも壁にも監視カメラらしきものは無く、家具調度品にも盗聴器らしきものはなかった。
「カンさん、そう神経質にならなくてもいいんじゃないかな? さしつかえのある話をしなければいいだけのこと。明日に備え、まずゆっくりしようじゃないですか?」
三枝のこの言葉に、カンは照れ笑いを浮かべた。三枝は、彼の童顔のような照れ笑いに思わず親近感がこみ上がるのを覚えた。
三枝は、バスにお湯を入れた。
「まず風呂にでも入って、さっぱりしようじゃないですか、ん?」
カンは、同意した。カンを先に入れ、三枝は後から入った。ヴィラの入口と周囲には監視兵が配置されていたから、カンを一人にしても問題はなかろうと判断した。湯船につかいながら、三枝はこれからのことを思案した。すると、ふいに榊原老人のことが脳裏をよぎった。榊原老人は、かって三枝が剣道の腕を磨いた榊原道場の主である。また武原首相は、榊原老人が一時政界に在籍していたころの懐刀であった。今回の件は、榊原老人が公安時代に宿敵とした総連の大物、カン老人との再会が発端であるという。こんな大それたことが、単なる想定でしかなかったことが、果たして起こり得るのだろうか? カンの話が本当であれば、この東アジア、いや、へたをすれば米国、中国、そしてロシアを巻き込んだ第三次世界大戦、核戦争にまで発展するかも知れない歴史の狭間に、まさに自分が置かれていると思うと身震いした。
三枝が風呂から上がると、あでやかな韓服に着替えた先程の女中尉がリビングテーブルに食事を用意していた。鍋料理であった。ビールと焼酎も用意されていた。
「やあ、ご馳走だね」
と三枝が女中尉に言うと、
「ハン次官様からのおごりです..」
と言って、くったくのない笑顔を浮かべた。しかし、カンはと見ると、何やら緊張した面持ちである。
三枝がテーブルに座っても、カンは考え込んだように箸もスプーンも取ろうとはしない。女中尉がビールがいいか、焼酎がいいかを聞いたが、カンは返事すら口ごもんだ。
「まずビールで行こうじゃないか?」
三枝がそういうとカンはうなずいた。女中尉がそそいだグラスのビールで乾杯し、三枝は一気に飲み干した。それにつられるようにカンも飲み干した。カンはいかにもうまそうな表情を見せた。