捕鯨とクジラ保護

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宮沢賢治のビヂテリアン大祭_32

投稿者: capt_paul_watson 投稿日時: 2008/04/01 21:40 投稿番号: [18743 / 63339]
私は会釈して壇を下り拍手もかなり起りました。異教徒席の神学博士たちももうこれ以上論じたいやうな景色も見えませんでした。けれども異教徒席の中にだってみんな神学博士ばかりではありませんでした。丁度ヘッケルのやうな風をした眉間に大きな傷あとのある人が俄かに椅子を立ちました。私は今朝のパンフレットから考へてきっとあれは動物学者だらうと考へたのです。

  その人はまるで顔をまっ赤にしてせかせかと祭壇にのぼりました。我々は寛大に拍手しました。その人はぶるぶるふるえる手でコップに水をついでのみました。コップの外へも水がすこしこぼれました。そのふるえやうがあんまりひどいので私は少し神経病の疑さへももちました。ところが水をのむとその人は俄かにピタッと落ち着きました。それからごくしづかに何か云ひさうに口をしましたがその語はなかなか出て来ませんでした。みんなはしんとなりました。その人は突然爆発するやうに叫びました。二三度どもりました。

「な、な、な何が故に、何が故に、君たちはど、ど、動物を食はないと云ひながら、ひ、ひ、ひ、羊、羊の毛のシャッポをかぶるか。」その人は興奮の為にガタガタふるえてそれからやけに水をのみました。さあ大へんです。テントの中は割けるばかりの笑ひ声です。

  陳氏ももう手を叩いてころげまはってから云ひました。

「まるでジョン、ヒルガードそっくりだ。」

「ジョンヒルガードって何です。」私は訊ねました。

「喜劇役者ですよ。ニュウヨーク座の。けれどもヒルガードには眉間にあんな傷痕がありません。」

「なるほど。」

  そのあとはもう異教徒席も異派席もしいんとしてしまって誰も演壇に立つものがありませんでした。祭司次長がしばらく式場を見まはして今のざわめきが静まってから落ちついて異教徒席へ行きました。ほかにお立ちの方はありませんかとでも云ったやうでしたが誰もしんとして答へるものがありませんでしたので次長は一寸礼をして引き下がりました。

「すっかり参ったやうですね。」陳氏が私に云ひました。私も実際嬉しかったのです。あんなに頑強に見えたシカゴ軍があんまりもろく粉砕されたからです。斯う云ってはなんだか野球のやうですが全くさうでした。そこで電鈴がずゐぶん永く鳴りました。そのすきとほった音に私の興奮した心はもう一ぺん透明なニュウファウンドランドの九月といふやうな気分に戻りました。みんなもさうらしかったのです。陳氏は
「私はもう一発やって来ますから。」と云ひながら立ちあがって出て行きました。
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