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河童23

投稿者: peekaboofrom8jo 投稿日時: 2004/10/07 01:16 投稿番号: [186 / 3394]
「それから戦争になったのですか?」
「ええ、あいにくその獺は勲章を持っていたものですからね。」
「戦争はどちらの勝ちになったのですか?」
「もちろんこの国の勝ちになったのです。三十六万九千五百匹の河童たちはそのために健気(けなげ)にも戦死しました。しかし敵国に比べれば、そのくらいの損害はなんともありません。この国にある毛皮という毛皮はたいてい獺の毛皮です。わたしもあの戦争の時には硝子(ガラス)を製造するほかにも石炭殻(がら)を戦地へ送りました。」
「石炭殻を何にするのですか?」
「もちろん食糧にするのです。我々は、河童は腹さえ減れば、なんでも食うのにきまっていますからね。」
「それは――どうか怒(おこ)らずにください。それは戦地にいる河童たちには……我々の国では醜聞(しゅうぶん)ですがね。」
「この国でも醜聞には違いありません。しかしわたし自身こう言っていれば、だれも醜聞にはしないものです。哲学者のマッグも言っているでしょう。『汝(なんじ)の悪は汝自ら言え。悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも愛国心に燃え立っていたのですからね。」
  ちょうどそこへはいってきたのはこの倶楽部(クラブ)の給仕です。給仕はゲエルにお時宜(じぎ)をした後(のち)、朗読でもするようにこう言いました。
「お宅のお隣に火事がございます。」
「火――火事!」
  ゲエルは驚いて立ち上がりました。僕も立ち上がったのはもちろんです。が、給仕は落ち着き払って次の言葉をつけ加えました。
「しかしもう消し止めました。」
  ゲエルは給仕を見送りながら、泣き笑いに近い表情をしました。僕はこういう顔を見ると、いつかこの硝子(ガラス)会社の社長を憎んでいたことに気づきました。が、ゲエルはもう今では大資本家でもなんでもないただの河童(かっぱ)になって立っているのです。僕は花瓶(かびん)の中の冬薔薇(ふゆそうび)の花を抜き、ゲエルの手へ渡しました。
「しかし火事は消えたといっても、奥さんはさぞお驚きでしょう。さあ、これを持ってお帰りなさい。」
「ありがとう。」
  ゲエルは僕の手を握りました。それから急ににやりと笑い、小声にこう僕に話しかけました。
「隣はわたしの家作(かさく)ですからね。火災保険の金だけはとれるのですよ。」
  僕はこの時のゲエルの微笑を――軽蔑(けいべつ)することもできなければ、憎悪(ぞうお)することもできないゲエルの微笑をいまだにありありと覚えています。
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