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声なき声 イラクの人々の肉声  (下)

投稿者: nishina3777 投稿日時: 2003/04/07 10:04 投稿番号: [7927 / 28311]

   「一日も早い戦争を望む」と語るイラク人の真意に迫りたかった私は、ずっとバグダッドに残りたいと思った。が、自分の部族代表に「あなたの仕事はここに残るより声なき私たちの声を伝えることだ」と言われ、涙ながらに脱出を決めた。
  出国する最後の日まで、戦争が近づいている雰囲気はなかった。みんな普通の生活をしていた。「こんな大変な時にどうして普通になれるのか」と聞く私に彼らは「」私たちはもう三十年近く戦争の中にいる。子どもたちに絵を描かせれば、戦車やミサイルを描く。戦争しか知らない者の気持ちはあなたには分からない」と説明するのだった。
  国境に着くと、車を細かくチェックされた。私は命をかけて証言してくれた人々の映像を体中に入れて隠していた。
  うまくいったと思ったが、急に役人が「金を持っているか」と問う。私の体を触り始め、録画テープはすべて見つかった。イラクではビデオや携帯電話は禁じられ、見つかれば没収され、拘束されてしまう。
  役人はテープと携帯電話をテーブルに並べ「これは何だ」と尋ねた。答えに困った私に、役人は哀しそうな、寂しそうな顔を向けて所持品を返した。勝手な想像だが、役人までもが「この映像で私たちの悲惨な状況を伝えて」と訴えかけていたのだはないかと思う。
  湾岸戦争後、緊急援助のため政府時別機で入ったヨルダンの難民キャンプで「日本って素晴らしい国ですね。法律で戦争ができないと聞いた」と言われた。私は初めて、日本の理念が世界で評価されていると実感した。バグダッドでも日本の憲法の話は喜ばれた。
  言うまでもないが、戦争は常に失敗なのだ。だから戦争から立ち直り、平和を国の基本に掲げたはずの日本の責任は最も重い。だが、政府は外務副大臣しかバグダッドに派遣せず、米英を嫌うイラクの人々を「戦争を望む」言わしめるまでの絶望に追い込んだ。
  平和憲法を持つなら、米英が戦争に使ったのと同じパワーで平和のために戦うべきだった。日本の対応はイラクの人々への背信行為であり、取り返しがつかない失態だ。
  だが、まだ遅くはない。日本の学生、医者、建設技術者から主婦まで、再び歩き出すイラクに手を貸すべきだ。湾岸戦争で何も出来なかったと反省するならば、復興のために最も早く、最も大規模な貢献をするべきだ。
  私たちはヨルダンの人々から寄付を受けたトラックで、早ければ数日中にも援助物資を満載してバグダッドに向かう。みなさんも動き出してほしい。

  静岡新聞   四月七日   (月)
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