斜め上の雲 83
投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/09/12 00:19 投稿番号: [1770 / 2847]
外交といえば、この時期、日本に対しての姿勢がきびしくなってきている。
九一年には、すでにふれたように「従軍慰安婦」問題について元従軍慰安婦らが日本政府に補償を提訴した。日本でも、朝日新聞が著書によって問題を提起した吉田清治をさかんに称揚し、吉見義明中央大教授らが論陣をはって日本軍の犯罪体質を告発するなど、日韓の連帯によって運動はもりあがっていた。
兵役を終えて復学した世実もその運動にくわわっていた。デモ行進に参加して日本大使館に卵をなげたり日章旗を焼くなど、そのうごきはよくめだった。
世実は、兵役の代替で公益勤務要員をつとめていたが、とくに訴訟などをあつかう役所や団体にながくつとめた。しぜん、弁護士や国会議員といったひとびととの接触もしげくなり、そのなかでいっぷうかわった国会議員と親しくなった。
おだやかな顔つきで、きどらない庶民派弁護士出身の国会議員として高名なその男は、盧武鉉といった。もっとも、かれは九二年に落選し、数年後補選でかろうじて当選した。
世実は、盧武鉉に気にいられたこともあって、学生運動家として野党の現役国会議員たちの事務所に出入りするようにもなった。はげしいデモに参加するだけでなく、舌鋒がするどく論旨の明快な議論を得意としたかれはたちまち有名になり、野党だけでなく与党議員にも知られるようになった。
九三年夏、従軍慰安婦問題がおおきくなっているころである。
(なんとしても、日本に罪をみとめさせるべきだ)
と考えた世実は、ひそかに与党議員を訪問し、密談した。
世実はいった。
「私が得ている情報から判断するに、日本は慰安婦強制連行の文献証拠を発見できていません」
――ところでウリナラは。
と、世実はいう。これに対しすくなくとも強制連行を認めさせねばなりません。
「勝算は如何」
と、議員。
「たとえ文献的証拠がなくとも、当事者の証言でじゅうぶんです。むろん、日本は慰安婦女性への聞き取り調査をするにちがいないです。そうなればこちらも証言者の慰安婦女性を増派してゆきましょう」
「要するにまず認めさせることだな」
「そうです、最低限の目標です」
「しかし、河野は認めるまい。軍の関与をうらづけるものがない」
「そこを、ごまかすのです」
と、世実はいった。
「河野に対してはかたちだけでも強制性を認めてくれ、世論が納得しないから、といっておきます。これならば河野もおれるでしょう」
「それで?」
「かたちだけでも認めてしまえば、既成事実として承認されます。あとはそれをはたじるしにあげていつでもつかえます」
世実がみるように、河野洋平はこの慰安婦問題が燃えさかることをおそれ続けた。というより、この問題からのがれるためならたいていのことは受けいれようと考えていたふしがある。
九一年には、すでにふれたように「従軍慰安婦」問題について元従軍慰安婦らが日本政府に補償を提訴した。日本でも、朝日新聞が著書によって問題を提起した吉田清治をさかんに称揚し、吉見義明中央大教授らが論陣をはって日本軍の犯罪体質を告発するなど、日韓の連帯によって運動はもりあがっていた。
兵役を終えて復学した世実もその運動にくわわっていた。デモ行進に参加して日本大使館に卵をなげたり日章旗を焼くなど、そのうごきはよくめだった。
世実は、兵役の代替で公益勤務要員をつとめていたが、とくに訴訟などをあつかう役所や団体にながくつとめた。しぜん、弁護士や国会議員といったひとびととの接触もしげくなり、そのなかでいっぷうかわった国会議員と親しくなった。
おだやかな顔つきで、きどらない庶民派弁護士出身の国会議員として高名なその男は、盧武鉉といった。もっとも、かれは九二年に落選し、数年後補選でかろうじて当選した。
世実は、盧武鉉に気にいられたこともあって、学生運動家として野党の現役国会議員たちの事務所に出入りするようにもなった。はげしいデモに参加するだけでなく、舌鋒がするどく論旨の明快な議論を得意としたかれはたちまち有名になり、野党だけでなく与党議員にも知られるようになった。
九三年夏、従軍慰安婦問題がおおきくなっているころである。
(なんとしても、日本に罪をみとめさせるべきだ)
と考えた世実は、ひそかに与党議員を訪問し、密談した。
世実はいった。
「私が得ている情報から判断するに、日本は慰安婦強制連行の文献証拠を発見できていません」
――ところでウリナラは。
と、世実はいう。これに対しすくなくとも強制連行を認めさせねばなりません。
「勝算は如何」
と、議員。
「たとえ文献的証拠がなくとも、当事者の証言でじゅうぶんです。むろん、日本は慰安婦女性への聞き取り調査をするにちがいないです。そうなればこちらも証言者の慰安婦女性を増派してゆきましょう」
「要するにまず認めさせることだな」
「そうです、最低限の目標です」
「しかし、河野は認めるまい。軍の関与をうらづけるものがない」
「そこを、ごまかすのです」
と、世実はいった。
「河野に対してはかたちだけでも強制性を認めてくれ、世論が納得しないから、といっておきます。これならば河野もおれるでしょう」
「それで?」
「かたちだけでも認めてしまえば、既成事実として承認されます。あとはそれをはたじるしにあげていつでもつかえます」
世実がみるように、河野洋平はこの慰安婦問題が燃えさかることをおそれ続けた。というより、この問題からのがれるためならたいていのことは受けいれようと考えていたふしがある。
これは メッセージ 1757 (toapanlang さん)への返信です.
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