朝鮮を笑う

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斜め上の雲 13

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/03/01 06:49 投稿番号: [1241 / 2847]
  金錫源のひきいる首都師団が、安東を守備していたころのはなしである。
なにかの用で、金錫源は幕僚や錫元を連れて、首都師団の属する第1軍団の司令部に行ったことがあった。
  たまたまそこにおとずれた申性模国防部長官が、在日韓国人の間で義勇兵に志願するものが多く、いずれ部隊が編成されて来援するだろうと、金錫源にいった。
  金錫源は喜色を顔にうかべた。とはいえ、それらを即戦力として期待するほどあまいわけではない。かれらに国をおもう心があるのを感じたからである。

  だが、意外な人物が怒声をあげた。第1軍団長金弘壹少将である。
「36年かかって倭奴(ウェノム)を追い出したのに、また奴らが来るのがうれしいのか」
  軽蔑の表情をあらわにして金錫源が反駁した。錫元はこれほど激昂した金錫源をみたことがない。戦場での叱咤とはまったく異質な声であった。
「何をいうかァ。かれらは同胞だぞ」
  中国軍出身の金弘壹は、仕方のないことではあろうが、日本軍とその関係者を忌みきらっていた。
  また金錫源のほうでも、戦況が劣勢なのは、「スケソウダラ事件」のように高級将官が現場をないがしろにして、なんの備えもしていなかったせいだというおもいがある。しぜん、両者はそりがあわない。それがここで爆発したといっていい。
  韓国軍には日本軍、満州軍、中国軍、光復軍出身者がまじり複雑な人間関係があった。前面に敵をかかえる戦時下ではそれが露出することはすくなかったが、まれにこのような事件がおこった。

  出身母体の文化のちがいも摩擦の原因ではあっただろう。たとえば金錫源はしきりに死守を主張し、大声をはりあげた。かれにしてみれば敵軍に圧倒されっぱなしの自軍を奮いたたせるためにはそういう気概が必要だということでいわば気合をかけているのであるが、日本軍出身でない将官からみれば、たんなる粗暴にみえてしまう。
  安東撤退時の金錫源と金白一の感情的な衝突も、そういったところに遠因があったようにもおもわれる。

  しかし、金弘壹のうかつさは、その場に在外同胞の軍人がいることを忘れていたことであった。
  米軍第7師団、第31連隊の第1大隊長であるヨンオック・キム大尉である。かれは朝鮮系米国人である。
  とはいえ、第二次大戦中には日系人部隊に属して欧州戦線を戦ったというからややこしい。

  朝鮮半島からの移民二世でロサンゼルス出身のかれは、徴兵されたのち、優秀であったため士官学校にすすんだ。陸軍省はかれを朝鮮系ではなく日系だとかんちがいして、日系人部隊である第100大隊に配属した。

  さすがに大隊長はまちがいに気づいた。
「希望するなら、他部隊への転出を手配する」
  大隊長のことばにキムは首を横にふった。そのままとどまって小隊を率いることになった。
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