鷺沢萠『ケナリも花,サクラも花』
投稿者: bosintang 投稿日時: 2004/04/17 12:47 投稿番号: [2045 / 3669]
(新潮文庫,1994)
>自身の韓国留学を素材に書いた小説を読むと、
軽いタッチの作品でしたね。小説というより実話でしょう。
韓国の意識の中では,おばあさんだけ韓国人で,国籍日本人のクオーターも,無条件で僑胞になるらしいね。
タクシーの中で,
「どこの人?」
「日本から来ました」
「あー,それじゃ僑胞か」
「わたしにもよく判りません。祖母だけ韓国人です。
説明するのが難しいんです」
「難しくはないでしょう,だからお客さんはつまり僑胞でしょう」
運転手はとても簡単に言った。
「あたしゃそうは思いませんよッ。あたしはねぇッ,こんな国大ッきらいですッ」
ソンジャさん(在日)は思わずそう怒鳴ってしまったという。何人かの学生が集まってのお酒の席でのことだったらしい。
わざわざ韓国に来てまで韓国語を勉強している日本人は,その動機において大雑把にふた種類に分けられる。ひとつは,この国に前から興味をもっていたりこの国の文化が好きだったりで,それが高じて来韓してしまった,というケース。もうひとつは会社の転勤や仕事上の理由で韓国語を勉強している,というケース。
後者のタイプである日本人の男性が,韓国はホントにいい国だ,俺はここでどんなに楽しい生活を送っているか判らないみたいなことを,しかも韓国語で言ったらしい。件のソンジャさんの台詞は,その彼のことばに対して発せられたものであった。
仕事の上で必要なことだから勉強しているのだとはいえ,学校での時間が大半を占める彼の生活は学生のそれである。だから彼が言った「楽しい」というのは,一度は社会人としての生活を経験したあとで再び学生に戻れたようで楽しい,という意味だったのではないかとわたしは推察する。それに,韓国の風土や食べ物が彼に合っていた,ということもあるのかも知れない。だから,彼がそういう言い方をしたのも判らないではない。
けれどわたしは,ソンジャさんが怒鳴ってしまった気持ちも痛いほどよく判るのである。さらに言えば,ソンジャさんやわたしのような種類の人間は日本人のそういうことばを聞くたびに,「ホントにそう思ってんのかよ,えっ」と詰め寄ってしまいたくなる,というのもほんとうのことなのである。それは彼らがこの国に対して発する美辞麗句の裏側に,この国に対してはまさか悪口は言えないでしょ,それにこんな国に対してすらも理解を示せる国際性を持っていなくちゃ,というような匂いを感じるせいだと思う。
こういうタイプ,掲示板にもいるよね。
「バカにしてるヒトに対しては,真面目に意見したりはしないじゃない。別にどうだっていいや,って思うじゃない。それと一緒。日本人はやっぱり韓国のことバカにしてるからほんとうに思ったり感じたりしたことを言いはしないんだよ」
わたしはチョンジャさんのそのことばを聞いたとき,テーブルの上に両手をガーンと突いて,ぐわーっと立ち上がりながら「それ見たことかああっ」と叫びたくなった。
それ見たことか。何十年もほんとうのことを言わず,ただ自分の上に火の粉がかかるのをおそれてキレイゴトしか言わなかった日本の文化人たちよ。外国で韓国人に出会うとまずはじめに謝ることにしているんです,と得意げに語り続けた「国際人」たちよ。それが結果的には「バカにされてるんだな」という感覚を生んだのだ。
わたしは仕方なく黙った。多くの日本人には韓国を「バカにする」という感情はないと思ったけど,――どちらかといえば「気を悪くされないように神経を遣っている」感じの人が多いと思ったけど,チョンジャさんが生まれてからの二十数年間,感じ続けたものが「バカにされてるんだな」というものだったのなら,それはもうどうしようもないことなのだ。ある側面での真理になってしまうのだ。そうして,あまりにも「気を悪くされないように神経を遣って」しまった部分こそが,長いこと日本人がほんとうを言えなかった原因でもあるのだ。
なかなか鋭いかなーっ,と。
>自身の韓国留学を素材に書いた小説を読むと、
軽いタッチの作品でしたね。小説というより実話でしょう。
韓国の意識の中では,おばあさんだけ韓国人で,国籍日本人のクオーターも,無条件で僑胞になるらしいね。
タクシーの中で,
「どこの人?」
「日本から来ました」
「あー,それじゃ僑胞か」
「わたしにもよく判りません。祖母だけ韓国人です。
説明するのが難しいんです」
「難しくはないでしょう,だからお客さんはつまり僑胞でしょう」
運転手はとても簡単に言った。
「あたしゃそうは思いませんよッ。あたしはねぇッ,こんな国大ッきらいですッ」
ソンジャさん(在日)は思わずそう怒鳴ってしまったという。何人かの学生が集まってのお酒の席でのことだったらしい。
わざわざ韓国に来てまで韓国語を勉強している日本人は,その動機において大雑把にふた種類に分けられる。ひとつは,この国に前から興味をもっていたりこの国の文化が好きだったりで,それが高じて来韓してしまった,というケース。もうひとつは会社の転勤や仕事上の理由で韓国語を勉強している,というケース。
後者のタイプである日本人の男性が,韓国はホントにいい国だ,俺はここでどんなに楽しい生活を送っているか判らないみたいなことを,しかも韓国語で言ったらしい。件のソンジャさんの台詞は,その彼のことばに対して発せられたものであった。
仕事の上で必要なことだから勉強しているのだとはいえ,学校での時間が大半を占める彼の生活は学生のそれである。だから彼が言った「楽しい」というのは,一度は社会人としての生活を経験したあとで再び学生に戻れたようで楽しい,という意味だったのではないかとわたしは推察する。それに,韓国の風土や食べ物が彼に合っていた,ということもあるのかも知れない。だから,彼がそういう言い方をしたのも判らないではない。
けれどわたしは,ソンジャさんが怒鳴ってしまった気持ちも痛いほどよく判るのである。さらに言えば,ソンジャさんやわたしのような種類の人間は日本人のそういうことばを聞くたびに,「ホントにそう思ってんのかよ,えっ」と詰め寄ってしまいたくなる,というのもほんとうのことなのである。それは彼らがこの国に対して発する美辞麗句の裏側に,この国に対してはまさか悪口は言えないでしょ,それにこんな国に対してすらも理解を示せる国際性を持っていなくちゃ,というような匂いを感じるせいだと思う。
こういうタイプ,掲示板にもいるよね。
「バカにしてるヒトに対しては,真面目に意見したりはしないじゃない。別にどうだっていいや,って思うじゃない。それと一緒。日本人はやっぱり韓国のことバカにしてるからほんとうに思ったり感じたりしたことを言いはしないんだよ」
わたしはチョンジャさんのそのことばを聞いたとき,テーブルの上に両手をガーンと突いて,ぐわーっと立ち上がりながら「それ見たことかああっ」と叫びたくなった。
それ見たことか。何十年もほんとうのことを言わず,ただ自分の上に火の粉がかかるのをおそれてキレイゴトしか言わなかった日本の文化人たちよ。外国で韓国人に出会うとまずはじめに謝ることにしているんです,と得意げに語り続けた「国際人」たちよ。それが結果的には「バカにされてるんだな」という感覚を生んだのだ。
わたしは仕方なく黙った。多くの日本人には韓国を「バカにする」という感情はないと思ったけど,――どちらかといえば「気を悪くされないように神経を遣っている」感じの人が多いと思ったけど,チョンジャさんが生まれてからの二十数年間,感じ続けたものが「バカにされてるんだな」というものだったのなら,それはもうどうしようもないことなのだ。ある側面での真理になってしまうのだ。そうして,あまりにも「気を悪くされないように神経を遣って」しまった部分こそが,長いこと日本人がほんとうを言えなかった原因でもあるのだ。
なかなか鋭いかなーっ,と。
これは メッセージ 2042 (kdm0709 さん)への返信です.
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