喫茶室「一服汁」

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宗主国さまのみち 10

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/08/26 18:59 投稿番号: [9607 / 19672]
  楊家湖では多くの人が泳いでいる。中国人は泳ぐことをこのまないときいていたが、わざわざ泳ぐためにここをおとずれる人もいるというから、どうやらこのあたりは例外であるらしい。
「それで保険があるんですね」
  朴やんが得心したようにいった。入場券販売所には、場内での傷害保険の受付窓口もあった。掛け金は一元、最大補償金は二万元である。しかし、泳いでいるひとびとは入場料をはらっているのだろうか。

  例外ということでいえば、わたくしどもは、
「儒教のおしえのため、中国人は人前で裸体をさらさない」
  ときいていた。
  しかし、このまちはどうであろう。短パンいっちょうで仕事をしたり歩いている男性がひじょうに多いのである。
  真夏の八月ということもあって気温はつねに三十度を超えており、ソウルよりもよほど暑いようにおもわれた。そういったせいもあるのかとおもったが、じゅうぶんに日焼けした肌をみるとずっと半裸でいるようである。
「なんてありさまなの。儒教のおしえはどこにいったのかしら」
  チャングムは顔をしかめた。建前と本音をつねに使いわけ、表ではかっこうをつけているものの、裏では民度の低さをさらけ出している中国人にとっては、儒教というのも金看板のひとつにすぎないのであろう。
「やっぱり、儒教をちゃんと受けついだウリナラこそ東方礼儀の国なのよね」
  チャングムのいうとおり、儒教を受けつぎ創造的に発展させたウリナラだけがほんとうの礼がある国であるといっていい。

  さらに先にすすむと十三メートルほどの高楼がある。階段の真ん中には龍が浮き彫りにされており通行禁止になっている。皇帝専用の通路を再現しているのである。
  上のほうからはスピーカーの声がきこえてくる。なにやら芝居がかった調子である。
「いってみましょう」
  チャングムが駆けだした。急な階段をものともしないみごとな身のこなしである。
  私どもがようやくたどり着くと、宮殿のなかで皇帝や皇后、武官、宮女たちによる演劇がおこなわれていた。スピーカーの声はその台詞まわしであったのである。
  劇はほぼ終わりかけのところであり、武官たちがひざまづき、
「皇爺、娘子、万歳万歳万々歳(ホワンイェ、ニャンツ、ワンスゥェイワンスゥェイワンワンスゥェイ)」
  ととなえて、一同が乾杯してお開きとなった。

「なんだかみょうに迫力がありましたね」
  朴やんは感心している。たしかに、中国皇帝のきらびやかさだけでなく、胡散くささや滑稽さまでもを再現しており、観光地のだしものとしてはわるくない。
  ウリナラにも『大長今』の撮影に使用したセットをそのままテーマパークにしたものがあり、みごとなものであるのだが、このような演劇まではなかったようにおもう。
  しかし、こういったものは再現ものであるとはいえ、にせものであることにはかわりがない。本物をみぬくきびしい審美眼をもったウリミンジョクには鑑賞にたえられるものかどうか、わたしにはわからない。
  もし、『大長今』のテーマパークでこれをやろうとすれば、李英愛(イ・ヨンエ)本人が出てこないと満足しないであろう。
「私じゃだめかしら」
  チャングムはウインクすると、スカートの裾をひるがえして一回転してみせた。
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