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街道を逝く 台湾奇行 9

投稿者: toaniuniu05 投稿日時: 2006/07/12 01:25 投稿番号: [7998 / 19672]
  鄭成功の母は、倭寇の後援者でもあった松浦氏の家臣の娘である。海商の親玉であった鄭芝竜は、倭寇の助けをえるため彼女を娶り成功をもうけたのである。
  のち彼女は鄭氏の本拠地である福州安平鎮にうつるが、芝竜の裏切りにより清兵の侵攻を受け投身自殺する。倭寇が韓半島や中国大陸でやってきた悪行と同じような目にあうと考えたのであろう。
  鄭成功は大陸でしばしば戦ったが利なく、ついに当時オランダ人の統治していた台湾に拠ることにした。オランダ人は台南のゼーランジャ城によっていたが、これをくだして追放した。成功は台湾占拠の翌年に三十九歳で病死するが、鄭氏政権はひきつづき台南を本拠地とした。

  かれは、復明運動の指導者であった唐王朱聿鍵に気にいられ、国姓である「朱」姓をたまわったため、「国姓爺」とよばれた。近松門左衛門はかれをモデルにして「国性爺合戦」という物語をつくった。
「どんな話なんですか」
  チャングムがいった。おおまかにいえば、明人鄭芝竜と日本人のあいだにうまれた和藤内(鄭成功)が、韃靼に亡ぼされた明朝を復興するというものであり、人形浄瑠璃として空前の大ヒットをし、のち歌舞伎化もされた。
  実在の人物を大胆に取りいれた娯楽劇なのだが、それでさえも日本人のもつ侵略願望がみえ隠れしているのは興味ぶかい。中国大陸に侵攻するというすじは失敗におわった壬辰倭乱のうさをはらすようでもあり、はるかな後年、日帝がたどったみちでもある。

  それにもまして近松が傲慢であったのは、韓半島をいっさい描いていないことである。
「ウリナラを描いていないんですか?なんて無識な」
  チャングムの怒りもとうぜんである。古来すべての文化が韓半島を通して日本に伝わったということを無視して物語がつくられているのである。これほど無知暴慢なふるまいは世界では類をみない。

  延平郡王祠からすこし北西にゆくと孔子廟がある。やはり文化の高いウリミンジョクはこちらのほうが落ち着く。
「もっともっとかしこくなりますように」
  チャングムがそういって手をあわせた。
「だめですよ。手ぶらでお願いしては」
  朴やんは購入した線香に火をつけてわたした。さらに香炉でなにか札束のようなものを燃やした。
「これは紙銭というものです」
  私の視線に気づいた朴やんがいった。わら半紙のような材質で表面には金箔や銀箔がおしてある。神の世界の通貨であり、これを香炉で燃やせば神の世界にとどくのだという。
  これは、願いごとを聞きとどけてもらうため神にそなえる成功報酬、みもふたもなくいえば賄賂である。

  中国人の世界観では、神の世界すら現世の官僚社会のような階層が整然としている。たんに神であるからといってなんでもできるわけではないのである。職掌も担当分野もそれぞれわかれているのであり、神であれなんであれ他者を動かすにはそれなりのもとでが必要なのである。
「なんてふまじめな世界観なのかしら。ウリナラの清廉さがほこらしいわ」
  すっかり興をさましたチャングムがいった。
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