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阿K正伝 1

投稿者: toapanlang 投稿日時: 2006/08/26 15:42 投稿番号: [311 / 1474]
No.1509785 投稿者: stmofh 作成日: 2006-08-26 14:49:51

阿Kは姓名や原籍がはっきりしないばかりでなく、以前の「行状」もはっきりしない。というのが、中国の人々は阿Kを奴隷にやとうだけで、そして彼をからかうだけで、一度も彼の「行状」に関心をもったことはなかったからである。阿K自身にしても、それを口にしたことはなく、ただ倭奴とけんかをしたときに、たまに目をむいて、こういった。
「おいらは昔は……お前なんかよりずっと偉かったんだぞ!お前がなんだってんだ!」

  阿Kには国がなく、中国の辺境に住んでいた。中国の外れに住んでいて大した地位もないが、中国に脅されると属国になって、牛三千頭と言われれば牛三千頭を送り、馬三千頭と言われれば馬三千頭を送り、各地の美女三千人と言われれば各地の美女三千人を送る。宗主国に朝貢して、済んでしまえばすぐに出て行く。だから中国人は朝貢時には阿Kを想い出すが、それも貢物のことであって「行状」のことでは決して無い。ひまになると、阿Kのことさえまったく忘れてしまうくらいだから、「行状」どころの話ではなかった。ただ一度だけ、ある中国人が「阿Kはなかなかの忠臣者だ!」といって賞めたことがある。そのとき阿Kは双肌ぬいで、のっそりとその中国人の前に立っていた。その中国人のことばが本気でいったのか、皮肉っていったのか、ほかの人にはわからなかった。しかし阿Kはひどくうれしかった。

  阿Kはまた非常に自尊心が強く、蛮族の住民どもは全く彼の眼中になかった。倭奴に対してさえ、はなも引っかけないといった風であった。そもそも倭奴とは、将来おそらく先進国になり変わるはずのものである。西洋人の尊敬を受けているのは、西洋文明を受け入れた事の外に、独自の文化をもっているからだ。ところが阿Kは精神的に格別の敬意をはらわないばかりか、おいらの子孫ならもっともっとえらくなるさ!と考えていた。それに、何度か中国に行ったことがあるので、阿Kの自尊心はいよいよ強くなっていった。それで彼は、倭奴をひどく軽蔑してもいた。たとえば我が国ではお茶碗をおいたまま食べるのだが、日本ではお茶碗を手にとって食べるという。あれはまちがってる、馬鹿げたことだ、と彼は思う。一族郎党を滅ぼすものといえば最大の罵倒語だが、倭奴には理解ができない。これもまちがいだ、馬鹿げたことだ、と彼は思う。しかし倭奴のやつらはまったく世間知らずの馬鹿げた田舎者だ。やつらは中国の中華文明を見たことがないのだ!



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