夢の国「イラン」についていろいろ教えて

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第六話 深い深い越えられない溝

投稿者: hafez0211 投稿日時: 2010/06/15 00:26 投稿番号: [3656 / 3876]
小菅拘置所では、面会前に身体検査が行われた。空港でやるのよりも更に厳重な物で、何度もボディチェックをされ荷物は全てロッカーに預け、差し入れだけを持ち受け付けへと通された。
面会時間は5分と決められていた。
自宅から1時間半以上かけて訪れたというのに、その短さには驚いてしまった。
面会室に入ると、立派な髭を生やしたMが現れいつもの「げんき?」を言った。
その日の私は事務的なメッセージを伝える必要も無かったので、寂しい気持ちを感じていること、知り合ってから私達はあまりにも早い別れが訪れたことを伝えた。Mは「ねぇ君、トルコに来ない?そこで会える。イランでは君に不自由があるかもしれない。でもトルコならば…また会おう。私たちには夢があった。一緒に叶えたい夢があった。だから君、私がいなくなっても私の事を忘れないで欲しい」と言った。
私は泣きながら頷いた。
すると、うつむき加減にしていた刑務官が痩せた肩を震わせて泣いているのに
ハッとさせられた。
(そういえば時間はすでに5分以上経過していた。もしかしてこの人は職務逸脱行為を犯そうとしている?)私は気づいた。多分Mも気づいていたと思う。
それからMは私との1ヶ月を振り返り、穏やかな声で懐かしそうに話した。
そして「今は君のために何もできない。待っていて欲しい」と言った。
アルミ板に手を伸ばすと彼も手を差し伸べてきて、手と手を重ねた。
こんなに近くにいるのに、私たちの間には大きな大きな、簡単には越えられない深い深い溝ができてしまった。

お互い何も言わなくても、特別な感情が芽生えはじめていたことに今私たちは気づいてしまった。
知らなければどんなにか楽だったことだろうか。
彼には国に婚約者がいると言っていた。
私も同じ立場である。
この先、私たちが再び会ってお互いの感情を確かめることは相当な痛みが伴うことが予測された。
互いに何年も愛情を育んできた人がいたはずなのに…
私たちはたった1ヶ月しか共に過ごしていないし恋人と呼べるような関係でもなかった…

「そろそろ面会を終了して良いでしょうか?」
刑務官の声にハッとさせられ、私たちは手をアルミ板から離した。ずっと手を付けっぱなしだったのだ、と失笑してしまった。
そしてその時改めて刑務官を見ると、私と同世代の若い青年であることが分かった。
私は「長く面会させて下さいましてありがとうございました」と深くお辞儀をし、Mに「次に会うのは裁判の時かもしれないわ」と伝えた。
Mは刑務官に背中を押され廊下へと導かれていくとき一瞬振り返った。
そして「○○の家に楽器と衣類がある。持ってきて欲しい」と叫んだ。
私はまだ彼の役に立てることが嬉しかった。そして隣県の彼のかつての家に
訪れるため彼の元同居人に連絡を取ることにした。
何かしらアクションを起こしていれば焦燥感や悲しみを感じなくて済む。
行ったことも無い遠方のMのかつての住まいを訪れることで、しばらくはこの現実から逃れることができる。
私は救われた気がした。
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