トルコ

Yahoo! Japan 掲示板トピックビューアー

[ << 最初のページ | < 前のページ | メッセージリスト | 掲示板表示 | [ メッセージ # ] | 次のページ > | 最後のページ >> ]

書評

投稿者: secular2004jp 投稿日時: 2006/08/01 22:53 投稿番号: [3694 / 4578]
2005年、クルアーン関係本が3冊も出版された。時流に流されないイスラーム思想研究が定着してきた証だと考えれば嬉しい限りである。まずはクルアーン写本の歴史とその美に触れた大川玲子『コーランの世界』河出書房新社。次にM. クック(大川玲子訳)『コーラン』岩波書店、J. ベルク(内藤陽介/内藤あいさ訳)『コーランの新しい読み方』晶文社。
ここでは2冊の翻訳本について簡単に評してみたい。クルアーンやムハンマドの研究については、(1)初期イスラーム史に関するムスリムの伝承を歴史文書とは考えず、聖書学の方法論などを用いて歴史的事実に切り込もうとするやり方と、(2)ムスリムの伝承を重視するやり方の流れがある。前者は19世紀の東洋学者(オリエンタリスト)以来の伝統であり、この前提に立てばクルアーン成立期は10世紀前後にされることさえある(たとえばJ. Wansbroughの著作)。後者の場合は、ムスリムの伝承に基づいてクルアーンは7世紀中盤にカリフ、ウスマーンによって編纂されたことになる。前者のやり方はムスリムの信仰を破壊するものと非難されることが多く、最近では後者の流れが強くなっているが、2つの流れが混淆した研究も多くなってる。
  どちらが正しいというわけでもないけれども、私自身は前者の立場に近い。初期イスラーム(特にムハンマド時代)を語る史料は、ムスリム共同体内部で伝えられた伝承だけで外部資料によって裏付けることができないことが多いのだが、最近の著作ではそれを「歴史的事実」としてとらえるものが多くなってきている。でも私は、超自然現象に満ち溢れ伝承にしか基づかない預言者時代は「歴史的事実」をある程度は反映しているかもしれないが、基本的には「神話」ととらえるべきだと思う。少なくても異教徒がそこまでムスリムの信条を受け入れる必要はない(気を配る必要はあるが)。初期イスラーム史(預言者時代から正統カリフ時代まで)は、ムスリムにとって輝かしい過去であり理想の社会として規範化されている。そこで語られる内容は、我々が大学の歴史学の授業で学ぶような、史実の積み重ねとしての歴史と言うよりも、機能的には「神をはじめとする超自然的存在や文化英雄による原初の創造的な出来事・行為によって展開され、社会の価値・規範とそれとの葛藤を主題とする」(広辞苑)という意味での神話に近い。このような神話的な物語を100%の史実として把握することはムスリムにとって信仰の一部であろう。だが、イスラームを学ぼうとする異教徒がそこまでつきあう必要はない。ムスリムがそれを史実と信じていることは尊重すべきであるが、宗教的理念と歴史的事実を混同することは、かえって異文化理解にとっての妨げとなるのではないだろうか。
  前置きが長くなってしまったが、初期イスラーム史を大胆に再構成したHagarism(P. Croneとの共著)で波紋を呼んだ歴史学者クックは(1)の流れをくむ人物である。その著作『コーラン』もムスリムが嫌がるような大胆な仮説も提示し、クルアーンがもたらす様々な問題点にも言及している刺激的な本だ。一方、クルアーンの仏語訳者として知られ、第三世界に強い共感を抱いていたベルクは、ムスリムの側に立ち東洋学者の伝統を批判する。どちらのやり方にもプラスとマイナスがあるのだろうが、異教徒がクルアーンにアプローチするなら、ムスリムが考えない(考えたくない)ような視点から切り込むことが重要なのではないだろうか?ムスリム学者の視点に立ってしまうと、1400年の伝統を受け継ぐ学問的作法を習得したムスリム学者には到底適わないだろうし、そこからはムスリムが触れたがらないような問題提起が出てくるとも思えない。私が刺激を受けた本はクックの著作の方だったのも、そういう理由に基づく。
  また、この2冊では翻訳者の力量の差も明確に出てしまっている。内容的に難しい部分もあるが、クルアーン研究の専門家である大川が訳したクック本は、きちんと意味が取れる正確な訳となっている。一方のベルク本は門外漢が訳したために、文意が取れない箇所が目に付いた。フランス語の原本を最初から読んだ方が早いかもしれない。この2冊の翻訳本は、誰が翻訳したかも重要なポイントであることを知らしめてくれる好対照の本であった。

http://blog.livedoor.jp/kikuchitatsuya/archives/50158344.html

私も実証主義歴史派です。証拠によって判断したい。
[ << 最初のページ | < 前のページ | メッセージリスト | 掲示板表示 | [ メッセージ # ] | 次のページ > | 最後のページ >> ]

Yahoo! Japan 掲示板 アーカイヴ

[検索ページ] (中東) (東亜) (捕鯨 / 捕鯨詳細)