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鬼畜日帝②

投稿者: kim_taek_joo 投稿日時: 2010/06/06 18:51 投稿番号: [167500 / 230347]
  分隊長佐藤軍曹の「捜索開始」の号令を背中に聞きながら、黒の綿服を着て武装した十幾つかの人間の塊が、なだれこむように畑を降りて部落に突入した。静かだった部落の中は、一度に食卓をひっくり返したように形容もつかない物音が憲兵の発射する威嚇射撃の銃声と一緒になって、あたりにひびいた。

  だが、不思議な事に、人間の叫び声がしない。ただ憲兵の怒り声だけである。私が真っ先にとびこんだ畑下の家には70歳位の老婆がセンベイ布団にくるまって寝ていただけで他に誰もいないし、めぼしい物一つ見当たらなかった。しかしそれでも私は、拳銃を老婆の顔に突きつけながら泥足で、オンドルの上にあがって、老婆の体をけりとばし、老婆の着ている布団を引きはがし、オンドルに敷いてあるアンペラだけをめくって、荒れ狂った。私に蹴り飛ばされた老婆は、恨めしそうに私の顔を見ているだけで、もの一つ言わない。病気で寝ていたのであろう。声を出す力さえなかったのである。

  勢いこんで飛び込んだ私は、自分の予期していたものがなかった事にムシャクシャしながら、オンドルの前に置いてあった、食べ物を入れる空つぼの瓶子を、老婆の身体の上に投げつけて表に飛び出した。隣りの家からも、私の同僚が飛び出してきた。「おい皆老いぼれぱかり残して逃げてしまいやがったらしいぞ」私は吐き出すようにどなった。

  春とはいっても、まだ雪解けが始まったばかりの長城、陽はもう山陰に落ち、あたりは薄暗くなり始めた。狙っていた獲物に逃げられ、真っ赤になって怒り出した分隊長佐藤軍曹は「よし残っている老いぼれを全部表に引き出せ」と大声でどなった。

  気抜けしたような感じで、次の命令を待っていた私達は、再び病人や老人の寝ている家々に飛び込んで行った。そして5分とたたない間に、病気で歩けない者まで地面を引きずって、表の窪地に引っぱり出した。集められた人々は、皆老人や病人であり、若い者は一人もいなかった。中には幼子をふところに抱えたお婆さんもいた。

  「チェッ!何て老いぼればかり残っていやがんだ。おい、セガレはどこへやった。八路軍はどこにいるんだ」通訳が、足もとにころがされている白髪の老人の胸を、棍棒でつつきながら、訊問を始めた。だが、老人はただの一言も語ろうとしない。

「こやつら皆オシの真似をしてトボケていやがる。構わないからぶん殴れ」分隊長の怒声の終わらぬうちに、一群の憲兵は手に手に棍棒で頭といわず、顔と言わず、土下座させられている全部で27、8名の老人をめった打ちにし始めた。

  私は自分で引きずり出してきた、先刻の70歳位の老婆の背中を、両手で梶棒を握って、力いっぱいぶん殴った。ただ一回で、老婆はかすかなうめぎをあげて死んでしまった。

  沈黙の反抗をしていた20数名の人々は、あまりの苦しさに、せきを切ったように大きな悲鳴をあげて、憲兵の拷問にもだえている。乳飲み子が火のついたように泣き出した。と、突然分隊長佐藤軍曹の怒声がした。「よし、こうなったら生田分隊長がいつも言っていた通り、どいつもこいつも全部殺してしまえ。一人も生かしておいちゃいかん。子供も皆殺せ」

  苦痛にもだえながらも、頑強に八路軍の行方を語ろうとしないこれら年老いた中国の農民の顔には、ありありと死んでも殺されても、絶対に民族を売る事はできない、という鋼のような堅い決心と、侵略者日本憲兵に対する炎のような憎悪がもえていた。

  まこと私達が赤化地区とよんでいたこの熱河の農民には、私達にはとうてい理解できない不屈の魂が身体中にあふれているようだった。だがこれまで数十名の農民を殺してきた私には、たとえひと言も口を割らない不屈の人間であっても、何の抵抗もできない青年や病人、婦人であっても殺すに何の手数もかからない。極めて無造作にやってのけられる仕事だ。分隊長の命令を聞くが早いか私は、腰の拳銃を取り出し、先程からの拷問に地に伏して悶え苦しんでいる老人の後頭部に銃口を押し当て、そこに倒れたり、座ったままでいる7人の老人を次々に射殺した。

  私の同僚も、私と同様まるでだるま落としのパチンコでもやる時のような格好で、動けなくなった老人を片っ端から射殺している。

  一番端の方で身体を伏せて、乳飲み子を懐に、我が身で子供を悪魔の手から守ろうとしていた老婆もまた、佐藤軍曹の拳銃一発で横に向き直り、乳飲み子をしっかり抱いたまま、低いうめき声をあげながら死んでしまった。佐藤軍曹は、片方の足で老婆の横腹をけったかと思うと、「エイッ!面倒だ、こ奴もやってしまえ」と舌うちしたかと思うと、見る間に泣き疲れ声も出なくなっている、何事が起こっているかも知らない二歳の男の子の頭は、一発のもとに撃ち貫かれた。
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