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「爺の剣」 - (11)by直子

投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2008/06/22 17:46 投稿番号: [165812 / 196466]
「三日目」

この日も二時間前に道場に来ました。明かりが点いていて、床も昨夜と同じく雑巾がけしてありました。ふいに母が待っている我が家に帰ってきたような気持ちになりました。小学校4年の時から通い始めたこの道場、私の祖父となった人の道場、私の初恋の人、私の叔父様となった人と稽古した道場、ここは私の大切な世界なのだと、このときはじめて思いました。

道着に着替えて、また鏡の前に立ちました。昨夜は、どうしても爺をくずすことができませんでした。気で攻めても、剣先で攻めても、誘っても、竹刀を払っても、二段、三段打ちしても、まったく通じませんでした。爺が打ってきたのはあの面一本だけでしたから、「先の先」も「後の先」もうかがうことができませんでした。

でも、あの爺の面は何だったのでしょうか。かなりスローな面でしたが、私は動けませんでした。あのときの私の心はどうだったのでしょうか。爺を迎え打つことができませんでした。防戦だけ、それもやっとのことでしのぎました。爺は、それまで一本も打ち込んできませんでしたから、ふいを突かれたのかしら。いいえ、ちがいます。爺の面がわかっていましたから..。ではなぜ?

爺の動作は、まるで大きな川の水がゆったりと流れているような、そんな感じで、不思議な動きです。動作に切れ目がないんです。節目もありません。でもあの爺のスローな面には、はっきりと技の起こりが見えました。私の得意な出小手や相面(面打ち落とし面)、面返し胴など、絶対にとれるはずだったのに、私は動けなかった。金縛りの術だったのでしょうか?   「そんなはずない..」

今夜は、三番勝負の最終日です。爺も打ってこなければ決着はつきません。爺はどんな打ちを見せるのでしょうか、昨夜も完敗の状態でしたから不安もありましたが、「よし!」と思う気持ちもありました。とにかく「私には私の剣道しかない!」と思い直して、鏡の向こうの私と対峙しておりました。どのくらいそうやっていたのでしょうか、ふいに鏡の向こうの私に爺の姿が重なりました。昨夜の爺の動きが鏡の向こうに見えるのです。

「ほう、今夜も早く来たか」
ふいに背後で高木師範の声がしました。手には木刀を持っています。
「今夜は、この木刀を使う」
「えっ!?」
「爺も木刀で立ち合う。ただし、爺は二刀を使う」
「えっ!?」

<続く>
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