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「爺の剣」 - (10)by直子

投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2008/06/22 17:17 投稿番号: [165811 / 196466]
「いけない!」
と思い、気を取り直して集中しました。するとどうでしょう、不思議なことに、爺のことも、爺の圧迫も感じなくなりました。大学の時、武道館でここ一番の決定戦をしている、そんな気持ちになりました。

どのくらい経ったのでしょうか、10分以上は経っていたと思います。爺の心が一瞬迷っているように見えたのです。瞬間、無意識に爺の面に飛び込んでおりました。でも、喉に激痛が走り、道場の床にいやというほど後頭部を強打し、そして息が出来なくなりました。

すぐに高木師範が私の面をはずして、もんでくださいました。爺も心配そうにのぞき込んでいたようです。まもなく、普通に息ができるようになりました。

「まったく、無茶な剣道をする」
「えっ?」
「爺の剣先が生きておるのに飛び込む馬鹿がおるか!」

高木師範は、苦笑いしながらそう言いました。私は、この言葉にハッとしました。女子剣道の場合、突き技は高校まで禁止されておりましたから、相手の剣先もあまり気にすることはありませんでした。クセになっていたんです。

爺はすぐに竹刀を引いて衝撃をやわらげたそうですが、私の飛び込みが鋭くて、思いの他強く入ってしまったようだと高木師範がいいました。そして、今夜も「勝負なし」と言いました。

「どうだ、明日これるか?」
「ええ..」
私は、そう言いながら爺を探しましたが、すでに道場にはおりませんでした。

爺の剣先は、私の喉の中心をわずかに外れていました。ですから防具の隙間から剣先が食い込んだようです。鏡をみると、見事に赤紫の大きな斑になっています。スカーフでも巻かなければおもてに出られません。お店にも行けません。

「三日目」

この日も二時間前に道場に来ました。明かりが点いていて、床も昨夜と同じく雑巾がけしてありました。ふいに母が待っている我が家に帰ってきたような気持ちになりました。小学校4年の時から通い始めたこの道場、私の祖父となった人の道場、私の初恋の人、私の叔父様となった人と稽古した道場、ここは私の大切な世界なのだと、このときはじめて思いました。
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