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「爺の剣」 - (8)by直子

投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2008/06/21 23:39 投稿番号: [165776 / 196466]
「二日目」

昨夜、高木師範は「勝負なし」といいましたが、私の惨敗です。すっかり爺に手玉にとられたのです。くやしくて、夜うなされてしまいました。今夜は、2時間前に道場へ行きました。

不思議です、道場にはたった今まで誰かがいたかのように明かりが点いていて、床も雑巾がけしたばかりという感じでうっすらと濡れております。さっそく稽古着に着替えて防具を着けました。

道場には大きな姿見があります。その前で昨夜の爺の構えをしてみました。どう考えても、この構えは私の正眼の構えに対して不利です。長所といえば、相手が打ってくる部位を絞り込み、予測できることぐらいです。私の瞬発力は、爺に勝っているはずです。それでも爺は、私より紙一重早く私の打ち込みに反応しているのです。

「まさか...」

私は鏡の向こうの私を見ながら、昨夜の試合を再現してみました。何度か繰り返す内に、ハッとしました。打ち込む前に打ち気が一瞬早く出ているのです。爺はこれを読んでいたに違いありません。それに下段の構えは、正眼の構えに対して近間になればなるほど対応が後手になり不利です。私は爺が前へ出てくる圧迫感から、まだ爺が反応できる間合い、すなわち早めに反応していたようです。爺のあの足さばきもくせ者です。竹刀剣道の足さばきではありません。何年か前、たった一度だけ偶然に見た爺の演武をイメージしながら、昨夜の試合から爺の攻略方法を見つけようと、何べんも繰り返し、鏡と対峙しておりました。

「おう早いな、もう来ておったか」
ふいに高木師範の声があひました。いつからそこにいたのでしょうか、道場の奥から私見ていたようですが、まったく気配を感じませんでした。まもなく奥の戸が開いて爺も入ってきました。昨夜と同様、私をチラリと見ただけで、正座すると面を着けはじめています。

私は、昨夜と同じ遠間で竹刀を爺の中心に構えました。爺の構えはやはり同じ下段の変則です。爺はダラリと構えていましたが、出てきません。私から徐々に間を詰めました。一足一刀の間合いから、さらに私はジリッと間合いを詰めてみました。昨夜、私が先に反応した間合いになりました。面金の奥の爺の目が私を見ています。いいえ、私の心を読み取ろうとしているようでした。

この間合いでは、一瞬の迷いが命取りになります。私は全神経を集中させて、思い切って、さらに間合いを詰めてみました。すると、爺の竹刀がすうっと上がってきて、私の竹刀にすりよってきます。「あっ!」私は打ち込む絶好の機会を逃しました。でも、爺の手の内を探ることが目的ですから、かまわずさらに間合いをジリッと詰めようとすると、逆に爺が私の竹刀を捉えてすっと出てきました。竹刀が絡み、私も爺も打てません。そしてつばぜり合いになった瞬間、私は引き面から引き小手を出して一足飛びに後退し、すぐに正眼に構えました。私の引き技は、爺にはまったく通用しません。でも、爺は昨夜のようには出てきませんでした。その代わり、爺は正眼に構えたのです。

<続く>
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