池澤夏樹氏のコラム(2)
投稿者: katakurichan2 投稿日時: 2003/02/21 22:25 投稿番号: [152850 / 177456]
具体的に説明しましょう。
第二次大戦後の世界で、平和への貢献に関して日本が
誇れることはいくつかありました。
まず、日本は少なくとも武器の輸出という商売はしなか
った。いくつかの違反事例はあるようですが、原則とし
てこれは守られてきました。アメリカはじめ先進国のほ
とんどが武器を売って稼いでいる時に、それだけはしな
かった。
また、アメリカの核の傘の下に入っていたとはいえ、
自分では核兵器は持たなかった。その技術も材料も手元
にあったけれど、しかし製造はしなかった。
もう一つ、ある意味では最も重要なのは、日本の軍人
が任務として人を殺したことが一度もなかったというこ
とです。
実際問題として日本は「国際紛争を解決する手段とし
ての武力の行使」はしないできた。
これらは明かに日本が主体的に決めて守ってきた方針
でした。
しかし、アフガニスタンを攻撃するアメリカ軍に給油
するために派遣された自衛艦は、結果においてアフガニ
スタンの人々を殺すのに手を貸しました。
あの作戦行動のどこが「自衛」なのか。仮に憲法解釈
によって自衛のための戦闘を認めるとしても、武力によ
るタリバン排除がなぜ自衛になるのか。
今回のアメリカ主導のイラク侵攻もまた日本の自衛と
はまったく無関係な行動です。いわゆる集団的自衛権の
範囲をも大きく踏み越えるものです。今、イラクはアメ
リカを攻撃しようとしているわけではないし、かつて攻
撃したこともない。日本にとっても、いかなる意味でも
脅威ではないばかりか、むしろ敵を増やすことになる。
ヨーロッパの国々はしばらく前から世界のバランスを
取ろうとしてきました。冷戦のあとでアメリカ一国が強
者になるのは好ましくない。だからかつてあれほど仲が
悪かったフランスとドイツが手を握り、この二か国を核
としてEUを構築した。ユーロという新しい通貨を立て
てドルに対抗しようとした。
この試みは成功しました。それ以上に、この試みが必
要な措置であったことが今回のような横暴なアメリカの
出現で証明された。いらだつアメリカのふるまいが却っ
てヨーロッパの結束を促すことになる。
このような先を読んだ世界観と主体性を日本は持てま
せんでした。だから川口外相のような世にも軽い、ぺら
ぺらな発言が出てくる。
ぼくが日本の停滞、日本の迷いと言うのはこのような
ことです。
先日、アメリカの軍事関係者が、きたるべきイラク攻
撃の展開を解説した時に、「ヒロシマ効果」という言葉
を使いました。
開戦の初日に300発から400発のミサイルをイラ
クに撃ち込む。翌日も同じ数のミサイルを投入する。こ
の集中的な大量破壊によってイラク側の戦意喪失を図る。
これを「ヒロシマ効果」と呼んだのです。
日本としてこれは聞き流せることではないはずです。
アメリカの軍人は今もヒロシマを成功した戦略と見なし
ている。10万人の死者のことも、あとあとまで残った
放射能障害のことも、まるで念頭にない。
日本にすれば、ここで抗議しなくて何のための50年
に亘る平和主義と反核だったのか。非核三原則は何だっ
たのか。
もしもヨーロッパの例に倣うとすれば、日本にとって
大事なのは遠いアメリカとの関係ではなく、近い中国や
朝鮮半島の二国との仲です。
この1年、日本は逆のコースをたどりました。近隣諸
国を敵視する姿勢ばかりを前に出した。
日本人のすべてがこの方針に賛成しているわけではな
い。人々は迷い、議論は乱れていますが、それ自体は悪
いことではないでしょう。今はむしろ議論をまとめよう
とする動きに警戒した方がいいかもしれません。
次回は、また少し後になるかもしれませんが、恐怖に
よる誘導という政治原理のことを考えてみたいと思いま
す。
(池澤夏樹 2003−02−20)
第二次大戦後の世界で、平和への貢献に関して日本が
誇れることはいくつかありました。
まず、日本は少なくとも武器の輸出という商売はしなか
った。いくつかの違反事例はあるようですが、原則とし
てこれは守られてきました。アメリカはじめ先進国のほ
とんどが武器を売って稼いでいる時に、それだけはしな
かった。
また、アメリカの核の傘の下に入っていたとはいえ、
自分では核兵器は持たなかった。その技術も材料も手元
にあったけれど、しかし製造はしなかった。
もう一つ、ある意味では最も重要なのは、日本の軍人
が任務として人を殺したことが一度もなかったというこ
とです。
実際問題として日本は「国際紛争を解決する手段とし
ての武力の行使」はしないできた。
これらは明かに日本が主体的に決めて守ってきた方針
でした。
しかし、アフガニスタンを攻撃するアメリカ軍に給油
するために派遣された自衛艦は、結果においてアフガニ
スタンの人々を殺すのに手を貸しました。
あの作戦行動のどこが「自衛」なのか。仮に憲法解釈
によって自衛のための戦闘を認めるとしても、武力によ
るタリバン排除がなぜ自衛になるのか。
今回のアメリカ主導のイラク侵攻もまた日本の自衛と
はまったく無関係な行動です。いわゆる集団的自衛権の
範囲をも大きく踏み越えるものです。今、イラクはアメ
リカを攻撃しようとしているわけではないし、かつて攻
撃したこともない。日本にとっても、いかなる意味でも
脅威ではないばかりか、むしろ敵を増やすことになる。
ヨーロッパの国々はしばらく前から世界のバランスを
取ろうとしてきました。冷戦のあとでアメリカ一国が強
者になるのは好ましくない。だからかつてあれほど仲が
悪かったフランスとドイツが手を握り、この二か国を核
としてEUを構築した。ユーロという新しい通貨を立て
てドルに対抗しようとした。
この試みは成功しました。それ以上に、この試みが必
要な措置であったことが今回のような横暴なアメリカの
出現で証明された。いらだつアメリカのふるまいが却っ
てヨーロッパの結束を促すことになる。
このような先を読んだ世界観と主体性を日本は持てま
せんでした。だから川口外相のような世にも軽い、ぺら
ぺらな発言が出てくる。
ぼくが日本の停滞、日本の迷いと言うのはこのような
ことです。
先日、アメリカの軍事関係者が、きたるべきイラク攻
撃の展開を解説した時に、「ヒロシマ効果」という言葉
を使いました。
開戦の初日に300発から400発のミサイルをイラ
クに撃ち込む。翌日も同じ数のミサイルを投入する。こ
の集中的な大量破壊によってイラク側の戦意喪失を図る。
これを「ヒロシマ効果」と呼んだのです。
日本としてこれは聞き流せることではないはずです。
アメリカの軍人は今もヒロシマを成功した戦略と見なし
ている。10万人の死者のことも、あとあとまで残った
放射能障害のことも、まるで念頭にない。
日本にすれば、ここで抗議しなくて何のための50年
に亘る平和主義と反核だったのか。非核三原則は何だっ
たのか。
もしもヨーロッパの例に倣うとすれば、日本にとって
大事なのは遠いアメリカとの関係ではなく、近い中国や
朝鮮半島の二国との仲です。
この1年、日本は逆のコースをたどりました。近隣諸
国を敵視する姿勢ばかりを前に出した。
日本人のすべてがこの方針に賛成しているわけではな
い。人々は迷い、議論は乱れていますが、それ自体は悪
いことではないでしょう。今はむしろ議論をまとめよう
とする動きに警戒した方がいいかもしれません。
次回は、また少し後になるかもしれませんが、恐怖に
よる誘導という政治原理のことを考えてみたいと思いま
す。
(池澤夏樹 2003−02−20)
これは メッセージ 152849 (katakurichan2 さん)への返信です.
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