対米全面テロ

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これは「戦争」ではない・・・(2)

投稿者: chottomato2 投稿日時: 2002/01/10 21:55 投稿番号: [129812 / 177456]
  一方的「襲撃」だった

  夜の帷につつまれると、カブールではひどくたくさんの犬が遠吠えをする。なにを訴えたいのか、ただ飢えているだけなのか、長い戦乱の果ての廃墟で、まだタリバーン兵の死体が多数埋まっているという瓦礫の上で、犬たちが臓腑を絞るような深い声で鳴きつづける。じっと聞いていると気がふれそうになるから、ときどき両手で耳を覆いつつ、私は考えた。戦争の定義が、武力による国家間の闘争であるなら、これは断じて「戦争」ではない、と。だれに訊ねても、激しい交戦などほとんどなかったというのだ。それでは、米英両軍によってなされたこととは、いったいなんだったのだろう。それは、国際法も人倫の根源もすべて無視した、計画的かつ一方的「襲撃」だったのではないか。
  クラスター爆弾の不発弾が無数に散乱するカブール郊外の麦畑で、私はひとしきり想像した。まったく同じ条件下にあるならば、米軍はアフガンに対して行ったような理不尽きわまりない空爆を、ボンやリヨンやメルボルンに対し、やれるものであろうか、と。クラスター爆弾だけでない、戦術核なみの威力のある大型爆弾(デイジーカッター)を、アフガンより数百倍も生活の豊かなそれらの現代都市に投下することができるか。おそらく、やれはしないであろう。そこにも、アフガンへの報復攻撃の隠された犯罪性があるのではないか。このたびの報復攻撃の裏には、冷徹な国家の論理だけではない、だれもが公言をはばかる人種差別がある、と私は思う。それにあえて触れない報道や言説に、いったいどれほどの有効性があるのか ---- 私は怪しむ。

  本当の国家再建遠く

  それにしても、米国の支援でタリバーン政権を倒した北部同盟軍の規律のなさはどうだろう。まるで清末の腐敗した軍閥である。幹部が昼日中から街のレストランに居座り、飢えた民衆を尻目に盛大に食事をしている。子細に見ると、それら幹部は、いまのところ形勢有利なタジク系のスンニ派であり、かつてタリバーンを形成していたパシュトゥン人らは肩を落とし、小さくなっている。だが、北部同盟軍の将兵らには何カ月も給料が支払われていないという。彼らは、かつてタリバーン兵がいた兵営で、なにするでもなく暮らしており、一部は夜盗化しているともいわれる。勝利の分け前を主張する北部同盟各派の内訌は必至であり、本当の和平と国家再建には、なおいまだしの感がある。
  ある日、米軍特殊部隊や北部同盟兵士らが、空爆で殺した兵士らの遺体から、指を切り取って集めているという噂話を耳にした。米側がDNA鑑定をして、オサマ・ビンラディンやその側近のものか、確かめるためだという。山岳部を中心に猛爆撃を加えては、死体の指を切り落とし収集するという、およそ文明とも文化ともいえない作業を想像して、私は身震いしたことだ。
  この冬、飢え死にしかかっている何万ものアフガン民衆のことなどまったく眼中にない、ひたすら不気味な報復の論理だけが、ここには、まかりとおっている。
  私はカブール滞在中に、日本でのいわゆる「不審船」騒動を知った。冷静な分析を欠いた過剰かつ居丈高な反応が相次いだ。そのとき、脳裏をかすめたことがある。不審船の出所とみられる国への、有無をいわせぬ「米国方式」の軍事攻撃である。杞憂であろうか。いや、アフガンにおける米軍の傍若無人のふるまいを見るならば、この暴力方式の他地域への適用は、現実的といわなくてはならない。いまからつよい反対の声を上げておくにしくはないのだ。


辺見   庸   <作家>

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以上、1月8日付朝日朝刊「私の視点『特集・アフガン空爆その後』」より無断転載。
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