「ソウル」 - 15 (第一部完)
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/21 12:09 投稿番号: [50275 / 73791]
「ソウル」 - 15
米兵を見た古参兵達は、すぐに殺気立った。
内一人が「殺せ!」と叫んだ。何人かが「そうだ、そうだ、殺せ!」と同調した。儂は振り向いて最初にそう叫んだ兵をにらみつけると、彼は押し黙った。すぐに古参兵の一人が仲裁しようといった素振りで間に入ってきた。最古参の川口であった。
「貴様ら、山下のことは俺にもようわかる。だがなあ、これが戦争だ。俺たちもいつ死ぬかわからん。こうやって丸裸で捕虜になったけが人をお前ら殺せるか? お前らも見たろう、こいつはなあ、危険承知で、仲間が心配で、ぴったり付いてきて、落とされた・・・。山下のことはなぁ・・・、ちっくしょう、犬死にしやがって・・・」
川口は、泣いていた・・。儂にとっても、最初の部下の死であった・・・。
米兵は、マイク・コリンズ(仮名)といった。大尉である。部下達のコリンズに対する怨念は、儂が彼の家族写真を見せてから、表面的には一応落ち着いた。本隊に伝令に走らせた部下が戻ってきたが、本隊の被害はここの比ではないらしい。重傷者は内地送りにされるとのことで、そうしておる間にも息を引き取るのが何人もいたとのこと。
「捕虜は、いつ引き取りに来る?」
「分かりません・・・」
「何故?」
「それどころじゃあないらしいです・・・」
「なに?」
「南参謀のお話では・・・」
何日か平穏な日々が続いた。情報は断片的にしか入ってこん。連合艦隊が敵戦艦と巡洋艦に大打撃を与えたとか、全体的な戦況は我方有利ばかりが耳に入り、具体的な敵の動静はこの小さな部隊までは伝わってこんかった。
コリンズが朝から儂を呼んでいるという。それどころじゃないから、夕飯どきにコリンズのところへ行った。コリンズはなれない箸で飯を食べておったが、儂を見るやいなや、口の無精ひげに飯粒をやたらとこびりつかせた顔で、待遇が悪いと文句を言い始めた。儂は思わず吹き出してしまった。それで部下に鏡を持たせ、その顔を見せてやった。すると、その無様な格好に恥じたらしく、あわてて髭の飯粒を手で払うと、こんな粗末な食事で捕虜を虐待しているという。見ると、みそ汁もあれば、タクアン、納豆もある。卵もあれば、ノリもある。それに南洋の魚。実に豪華である。しかし彼は、タクアンも、納豆も、ノリも、箸もつけづにそのまま残していた。気にいらんらしい。そこで儂は、丁度夕飯時であったから、まだ不自由な足を引きずらせて、彼を部下達のところへ連れて行って、部下達が食べておるところを見せてやった。彼よりも品数が少ない食事である。これを見て、彼は納得した風であったが、どうにも不満がおさまらないようである。
次の日、部下の一人が彼のために牛肉だとかいって、水牛肉の大きな固まりを現地人からもらってきた。内地のビフテキ屋で働いたことがあるというこの男は、さっそく皆とコリンズのためにビフテキを作った。味付けは塩だけである。
「デリシャス!」
とコリンズは言った。コリンズの喜ぶ顔を見て皆も喜んだ。その晩は、コリンズも一緒で久しぶりに盛り上がった。
次の日、コリンズは本隊へ連行されて行った。
その後、転戦を繰り返し、部下も何人か死んだが、やがて武装解除となり、連合軍の捕虜となった。捕虜になって何日目かに、米軍の憲兵が儂を連れ出しに来た。覚悟はしていたが、いよいよかと観念した。しかし、憲兵は儂に手錠をかけるわけでもなく、ジープの後部に座らせると、連合軍司令部のある町へと車を走らせた。町のひときわ大きいビルの一室、憲兵は、大部屋の隅のイスに儂を座らせ、しばらく待っておれという。大部屋には十人ばかりの連合軍兵士たちがおって、電話をかけたり、タイプライターを打っていたりしておった。一時間すぎても呼び出しがない。目の前でタイプライターを打っていた若い女兵士が、儂を可愛そうにでも思ったのか一杯のコーヒーを持ってきた。儂と目があってニコリとする。このコーヒーの香りと味は、今でも覚えておる。
やがて通された部屋の主は、少佐であった。いきなり、儂にマイク・コリンズのことを聞いてきた。彼は元気で救出されたとのこと。心配しておったが、無事でなによりというと、彼の少佐はニコリとして、儂にあることを頼みたいと言ってきた。
儂の本当の戦争は、このときから始まった。ほとんど全員が無事内地に帰還できたことは、儂の戦争が無為意味ではなかったと納得しておる。
内地に帰って、北海道の炭坑へ行く途中、山下の実家に寄ったが、母親は儂の話しに始終泣き崩れていた。しかし、父親は仕事の手を休めん。さぞかし無念であったろう。
「先生、どうかしましたか?」
ふいにキムの声が聞こえた。(爺)
米兵を見た古参兵達は、すぐに殺気立った。
内一人が「殺せ!」と叫んだ。何人かが「そうだ、そうだ、殺せ!」と同調した。儂は振り向いて最初にそう叫んだ兵をにらみつけると、彼は押し黙った。すぐに古参兵の一人が仲裁しようといった素振りで間に入ってきた。最古参の川口であった。
「貴様ら、山下のことは俺にもようわかる。だがなあ、これが戦争だ。俺たちもいつ死ぬかわからん。こうやって丸裸で捕虜になったけが人をお前ら殺せるか? お前らも見たろう、こいつはなあ、危険承知で、仲間が心配で、ぴったり付いてきて、落とされた・・・。山下のことはなぁ・・・、ちっくしょう、犬死にしやがって・・・」
川口は、泣いていた・・。儂にとっても、最初の部下の死であった・・・。
米兵は、マイク・コリンズ(仮名)といった。大尉である。部下達のコリンズに対する怨念は、儂が彼の家族写真を見せてから、表面的には一応落ち着いた。本隊に伝令に走らせた部下が戻ってきたが、本隊の被害はここの比ではないらしい。重傷者は内地送りにされるとのことで、そうしておる間にも息を引き取るのが何人もいたとのこと。
「捕虜は、いつ引き取りに来る?」
「分かりません・・・」
「何故?」
「それどころじゃあないらしいです・・・」
「なに?」
「南参謀のお話では・・・」
何日か平穏な日々が続いた。情報は断片的にしか入ってこん。連合艦隊が敵戦艦と巡洋艦に大打撃を与えたとか、全体的な戦況は我方有利ばかりが耳に入り、具体的な敵の動静はこの小さな部隊までは伝わってこんかった。
コリンズが朝から儂を呼んでいるという。それどころじゃないから、夕飯どきにコリンズのところへ行った。コリンズはなれない箸で飯を食べておったが、儂を見るやいなや、口の無精ひげに飯粒をやたらとこびりつかせた顔で、待遇が悪いと文句を言い始めた。儂は思わず吹き出してしまった。それで部下に鏡を持たせ、その顔を見せてやった。すると、その無様な格好に恥じたらしく、あわてて髭の飯粒を手で払うと、こんな粗末な食事で捕虜を虐待しているという。見ると、みそ汁もあれば、タクアン、納豆もある。卵もあれば、ノリもある。それに南洋の魚。実に豪華である。しかし彼は、タクアンも、納豆も、ノリも、箸もつけづにそのまま残していた。気にいらんらしい。そこで儂は、丁度夕飯時であったから、まだ不自由な足を引きずらせて、彼を部下達のところへ連れて行って、部下達が食べておるところを見せてやった。彼よりも品数が少ない食事である。これを見て、彼は納得した風であったが、どうにも不満がおさまらないようである。
次の日、部下の一人が彼のために牛肉だとかいって、水牛肉の大きな固まりを現地人からもらってきた。内地のビフテキ屋で働いたことがあるというこの男は、さっそく皆とコリンズのためにビフテキを作った。味付けは塩だけである。
「デリシャス!」
とコリンズは言った。コリンズの喜ぶ顔を見て皆も喜んだ。その晩は、コリンズも一緒で久しぶりに盛り上がった。
次の日、コリンズは本隊へ連行されて行った。
その後、転戦を繰り返し、部下も何人か死んだが、やがて武装解除となり、連合軍の捕虜となった。捕虜になって何日目かに、米軍の憲兵が儂を連れ出しに来た。覚悟はしていたが、いよいよかと観念した。しかし、憲兵は儂に手錠をかけるわけでもなく、ジープの後部に座らせると、連合軍司令部のある町へと車を走らせた。町のひときわ大きいビルの一室、憲兵は、大部屋の隅のイスに儂を座らせ、しばらく待っておれという。大部屋には十人ばかりの連合軍兵士たちがおって、電話をかけたり、タイプライターを打っていたりしておった。一時間すぎても呼び出しがない。目の前でタイプライターを打っていた若い女兵士が、儂を可愛そうにでも思ったのか一杯のコーヒーを持ってきた。儂と目があってニコリとする。このコーヒーの香りと味は、今でも覚えておる。
やがて通された部屋の主は、少佐であった。いきなり、儂にマイク・コリンズのことを聞いてきた。彼は元気で救出されたとのこと。心配しておったが、無事でなによりというと、彼の少佐はニコリとして、儂にあることを頼みたいと言ってきた。
儂の本当の戦争は、このときから始まった。ほとんど全員が無事内地に帰還できたことは、儂の戦争が無為意味ではなかったと納得しておる。
内地に帰って、北海道の炭坑へ行く途中、山下の実家に寄ったが、母親は儂の話しに始終泣き崩れていた。しかし、父親は仕事の手を休めん。さぞかし無念であったろう。
「先生、どうかしましたか?」
ふいにキムの声が聞こえた。(爺)
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.