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「ロシアの旅」(10)  揺り椅子の老女

投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/08 21:36 投稿番号: [48962 / 73791]
「ロシアの旅」(10)   揺り椅子の老女

二階建ての色あせた赤煉瓦作りの建物が建ち並ぶ路地へと入りました。彼はあっけにとられたような顔をして、それでもしかたがないといった風でついてきます。細い石畳の路地の片側には、半分歩道に乗り上げるようにして小型の乗用車がびっしりと駐車してありましたが、人通りはまったくありません。ただ、ところどころの窓際に鉢植えの花々が飾ってあって、それだけが人の住んでいる気配を感じさせておりました。

「そういえば、今日は日曜日だったかしら...」
そんなことを思いながら歩き続けていると、古い木造の家々が立ち並ぶ一画に出ました。不思議な、今まで見たこともない家です。分厚い板を何枚も互い違いに張り合わせた壁。四角い家で、四隅から中央に向かってお堂のような屋根が乗っかっています。玄関はやや高いところにあり、その前が板張りの小さなテラスになっていて、地面からテラスに上る5、6段ばかりの頑丈そうな木の階段がかかっています。家の古ぼけたむくの木肌は、もう百年以上もここに建っているんだと言っているようでした。思わず昔のロシアの暗く切ない物語が脳裏をかすめてしまい、しばらく眺めておりました。

隣にも、低い板塀に囲まれた同じような家があり、テラスではスカーフを巻いた一人の老女が揺り椅子に座って目の前の小さな庭をボーっと見つめています。やがて私たちに気付いたらしく、こちらにチラっと視線を向けましたが、すぐに揺り椅子を揺らしながらまた庭に視線を戻してしまいました。

「静かですのね...」
無言のまま付いてきた彼にそう話しかけると、彼はようやく笑みを取り戻し、
「家の人は、働きにどこかへでかけているのさ。ここには仕事がないからね。働き口を求めてどこかへ行っているんだよ...」
「ふ〜ん?」
「車だってガソリンがなきゃあ走れないし...」
彼は、ひとり言のようにつぶやきました。私は「あらっ、ロシアは石油がとれるのにガソリンが不足しているのかしら...」と、そんなことを考えながらさらに歩いていると、
「自由になってみんなお祭り騒ぎしたけど、これからどうしたらいいのか、どうなるのか、誰にもわからないんだよ」
「ふ〜ん...」
「この街、いや、この国全体がこれからどうしたらいいんだかわからないんだ。さっきの老婆も年金だけでは生活ができない。貨幣価値がどんどん下がっているからね。それでああして途方にくれているんだと思う...」
彼は私に説明するというより、まるで自分自身に言い聞かせるかのようにそこまで言うと、大きく溜息をつきました。

私は、これまで抱いていたロマンチックなムードがいっぺんに崩れ去って行くのを覚えました。

<続く>

直子
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