「ロシアの旅」(7) ダイニングにて
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/08 21:16 投稿番号: [48957 / 73791]
投稿者:チー
もうちょっと続けます^^
「ロシアの旅」(7) ダイニングにて
ホテルのレストランは、ただ広いばかりの食堂のようでした。粗末なテーブルにパイプ椅子、おまけによく拭いておりません。あちこちに食事のシミがこびりついています。食事の時間も決まっていて、その決まった時間以外は、サービスしてくれないとのこと。少し早かったせいか、お客もまばらで、ウエイトレスのおばさん方は、おしゃべりに夢中です。
私たちがテーブルに着いても、誰も注文を取りにきません。メニューもありません。邦夫さんが手をあげて呼びましたが、素知らぬふり。やがておしゃべりが一段落したらしく、小太りのおばさんが気怠そうに身体をゆすりながら私たちのテーブルにきて、自分の腕時計を指さしながらしきりにロシア語で何か言っております。「まだ時間じゃない」と言っているらしく、今度は邦夫さんが自分の腕時計を見せて何やら言い返しております。おばさんは「しかたない」といった表情で一枚の小さな紙片をテーブルの上に無造作に置くと、戻って行ってまたおしゃべりを始めています。
メニューでした。わずかばかりのメニューがロシア語で書いてありましたが、料理の写真も絵もありません。邦夫さんは少し考えこむと、
「何だかよくわからんなぁ。三人だから適当に一つずつたのんでみますか」
注文が決まったので邦夫さんが手をあげてウエイトレスのおばさんを呼びました。でも、こちらをチラッと見ただけでおしゃべりをやめません。やがてしぶしぶやってきて、注文を取って、奥の調理場に入って行きました。他のお客さんたちも待ちくたびれているのか、なれっこになっているのかむっつりしています。日本人客は、どうやら私たちだけのようです。
やがて彼女が面倒くさそうに食事を持ってきて、無造作にテーブルに置きました。でもお水がありません。お水も注文しないと出してくれないようです。
「ここの従業員の人たちって、みんなこうなのかしら...」
思わずそう疑ってしまいました。はずむ心とは裏腹にいやな雰囲気で、出された朝食も粗末なものでした。ボルシチとか、日本で食べたロシア料理を本場で食べてみたいと楽しみにしていたのに、みごとにがっかりしてしまいました。「ロシアでは、食べ物が不足しているのかしら...」、そんなことまで考えながら食べましたが、おいしくありません。
「無駄足かも知れませんね...」
ふいに邦夫さんがそう言うと、
「何か分かるじゃろ。どういう暮らしをしていたか、分かるじゃろ...」
爺は、食事の手を休めて少し考え込んでいるようでした。
「ところで、チョクは若い警官にデートに誘われておるそうじゃ」
爺は、冷やかすような眼差しを私に向けてから、邦夫さんに何かしら目配せしていました。
「えっ、もうですか?」
「いいおなごだから、さっそく目をつけられたようじゃ。あっはっはっはっ」
爺のこの言葉に、私は耳たぶまで熱くなるのをおぼえました。
私の名前は「直子」と書いて「なおこ」と読みますが、爺は私を「チョク」とか、「チョクシー」と呼ぶのがくせでした。「キョンシー」をもじっているのかなと思って、ほっておいています。
「正攻法で来た」
爺は、食事の途中でまた邦夫さんと話し始めました。
「別に隠すことでもない。立場ってもんがあるんじゃろ...」
邦夫さんは食事しながら黙って聞いておりました。私もお仕事の話しだと思って黙って聞いておりました。
私が食べ終わると、
「下で待っておるんじゃろ?」
「えっ?」
ふいにそう言われて爺を見ますと、爺はお財布からお札を一枚出して私に渡してくれるところでした。
「早く行ってあげなさい。お昼には戻ってきなさい」
邦夫さんは笑みを浮かべていましたが、どことなく心配そうです。私はそのお札を小さく八ツ折にたたむと、小銭入れにしまい込みました。
「大丈夫、行ってきます」
と言って席を立ちました。爺は、にが笑いしています。
彼は、ロビーで待っていました。上下とも明るいジーンズに着替えていて、まるで別人のようです。
<後日へ続きます>
直子
もうちょっと続けます^^
「ロシアの旅」(7) ダイニングにて
ホテルのレストランは、ただ広いばかりの食堂のようでした。粗末なテーブルにパイプ椅子、おまけによく拭いておりません。あちこちに食事のシミがこびりついています。食事の時間も決まっていて、その決まった時間以外は、サービスしてくれないとのこと。少し早かったせいか、お客もまばらで、ウエイトレスのおばさん方は、おしゃべりに夢中です。
私たちがテーブルに着いても、誰も注文を取りにきません。メニューもありません。邦夫さんが手をあげて呼びましたが、素知らぬふり。やがておしゃべりが一段落したらしく、小太りのおばさんが気怠そうに身体をゆすりながら私たちのテーブルにきて、自分の腕時計を指さしながらしきりにロシア語で何か言っております。「まだ時間じゃない」と言っているらしく、今度は邦夫さんが自分の腕時計を見せて何やら言い返しております。おばさんは「しかたない」といった表情で一枚の小さな紙片をテーブルの上に無造作に置くと、戻って行ってまたおしゃべりを始めています。
メニューでした。わずかばかりのメニューがロシア語で書いてありましたが、料理の写真も絵もありません。邦夫さんは少し考えこむと、
「何だかよくわからんなぁ。三人だから適当に一つずつたのんでみますか」
注文が決まったので邦夫さんが手をあげてウエイトレスのおばさんを呼びました。でも、こちらをチラッと見ただけでおしゃべりをやめません。やがてしぶしぶやってきて、注文を取って、奥の調理場に入って行きました。他のお客さんたちも待ちくたびれているのか、なれっこになっているのかむっつりしています。日本人客は、どうやら私たちだけのようです。
やがて彼女が面倒くさそうに食事を持ってきて、無造作にテーブルに置きました。でもお水がありません。お水も注文しないと出してくれないようです。
「ここの従業員の人たちって、みんなこうなのかしら...」
思わずそう疑ってしまいました。はずむ心とは裏腹にいやな雰囲気で、出された朝食も粗末なものでした。ボルシチとか、日本で食べたロシア料理を本場で食べてみたいと楽しみにしていたのに、みごとにがっかりしてしまいました。「ロシアでは、食べ物が不足しているのかしら...」、そんなことまで考えながら食べましたが、おいしくありません。
「無駄足かも知れませんね...」
ふいに邦夫さんがそう言うと、
「何か分かるじゃろ。どういう暮らしをしていたか、分かるじゃろ...」
爺は、食事の手を休めて少し考え込んでいるようでした。
「ところで、チョクは若い警官にデートに誘われておるそうじゃ」
爺は、冷やかすような眼差しを私に向けてから、邦夫さんに何かしら目配せしていました。
「えっ、もうですか?」
「いいおなごだから、さっそく目をつけられたようじゃ。あっはっはっはっ」
爺のこの言葉に、私は耳たぶまで熱くなるのをおぼえました。
私の名前は「直子」と書いて「なおこ」と読みますが、爺は私を「チョク」とか、「チョクシー」と呼ぶのがくせでした。「キョンシー」をもじっているのかなと思って、ほっておいています。
「正攻法で来た」
爺は、食事の途中でまた邦夫さんと話し始めました。
「別に隠すことでもない。立場ってもんがあるんじゃろ...」
邦夫さんは食事しながら黙って聞いておりました。私もお仕事の話しだと思って黙って聞いておりました。
私が食べ終わると、
「下で待っておるんじゃろ?」
「えっ?」
ふいにそう言われて爺を見ますと、爺はお財布からお札を一枚出して私に渡してくれるところでした。
「早く行ってあげなさい。お昼には戻ってきなさい」
邦夫さんは笑みを浮かべていましたが、どことなく心配そうです。私はそのお札を小さく八ツ折にたたむと、小銭入れにしまい込みました。
「大丈夫、行ってきます」
と言って席を立ちました。爺は、にが笑いしています。
彼は、ロビーで待っていました。上下とも明るいジーンズに着替えていて、まるで別人のようです。
<後日へ続きます>
直子
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.