「ロシアの旅」(4) 赤と黒の夜<ヌケ部分
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/08 21:01 投稿番号: [48954 / 73791]
投稿者:チー
「ロシアの旅」(4) 赤と黒の夜
一階の奥の片隅にある小さなバーでした。五つばかりのテーブル席と五、六人でいっぱいになりそうなカウンター席があり、ほとんどの男女はカウンター席に集まっていて、小太りの中年のバーテンとしきりに何か話しているところでした。他には、入口側のテーブルに男が二人、奥のテーブルに一人。奥の男はかなり酔っているようでした。
邦夫さんと私は、真ん中のテーブルに座りました。黒っぽい粗末な木のテーブルに真赤なビニールレザーのソファ。テーブルには、小さな赤いスタンドが一つぼつんと置いてありました。
「まるで場末のバーだね...」
邦夫さんはまわりを見回しながらそうつぶやきました。
私はカウンターを背にして座りましたが、周囲の視線が気味悪くて、それでも半分うつむいたままあたりの様子を見ようと、入口の方に目をやりましたら、テーブル席の男二人と目が合って、あわてて視線をテーブルのスタンドに戻してしまいました。
邦夫さんは、私の頭越しにカウンターの方を見ていましたが、誰も注文を取りにきません。来る様子もありません。それでしかたなく邦夫さんは席を立ってカウンターへ行き、片言のロシア語で何か訊いておりました。
「直ちゃん、ソーセージぐらいしかないそうだけど、それでいいかい?」
「何でもいいです...」
私はそう言いながら振り向くと、今度はブロンドの若い女性と目が合ってしまいました。真赤な口紅に濃いブルーのアイシャドゥを大げさに塗り、赤黒いレザーの、それも下着が見えそうなくらい超ミニのスカートをはいておりました。でも、ロウ人形のように無表情です。女性は、邦夫さんと二言三言話した後、カウンターの奥へ入っていきました。
「ああ、こういう女性を娼婦というのかしら...」
そんなことを思いながら、ますます落ち着かない気分になってテーブルのスタンドに視線を落としておりましたが、入口の男たちの私の横顔を射るような視線が気になってしかたありません。
「ごめん、直ちゃん、ここしかないから仕方ないね」
邦夫さんは席に戻るなりそう言って、しきりににが笑を浮かべています。
まもなく例の女性がやってきて、小さなソーセージ二本とわずかばかりのサラダを載せたお皿二枚、それに大きなグラスに入ったビールを一つ無造作に私たちのテーブルに置きました。私は、バツが悪くて目を上げることができません。その女性のスラリと伸びた両脚だけが目に入りました。でも、とても趣味の悪い網タイツを履いていて、靴も悪趣味です。
私は早くここから逃げ出したくて、味も何もわからないままお皿の上のソーセージをまたたくまに食べてしまいました。すると、
「これも食べなさい」
邦夫さんは笑いながら自分のソーセージを私のお皿に載せます。
「えっ、もういいんです」
「お腹がすいているのは、直ちゃんだろ?」
「でも...」
「いいから、いいから、私はこれがあれば十分...」
邦夫さんは、そう言いながらビールを飲み干し、またビールを注文しています。そしてビールが来る間、深々とソファに身をしずめながら物珍しそうに店の中を見回しています。私には、先程から何か言いたそうに奥の席からうつろな視線を私たちに投げている酔っぱらいの男のことも気がかりでなりません。
例の女性がビールとジュースを持ってきて、また無造作に私たちのテーブルに置きましたが、今度は酔っぱらいの方へ行って何やらどなり始めています。その剣幕に私が思わず酔った男の方を見ていますと、
「お金がないなら、さっさと帰りなさいと言ってるんだよ」
邦夫さんは、笑いながら私にそう説明しました。
私がソーセージとサラダを食べ終わるのを見届けるかのように、邦夫さんはグラスに残っているビールを一気に飲み干しました。
「さあ、出よう」
私は救われたような気持ちになって、逃げるようにしてバーから出ました。そして邦夫さんが出てくるの待つでもなく、エレベータのあるロビーへと向かいました。途中のロビーのソファには、警察官のような制服姿の男たちが四、五人座っていて、一斉に私を見ています。腰には拳銃をつけています。私はなにか悪いことでもしているかのような気持ちで、そのままエレベータへと急ぎました。
「だめだよ、単独行動は...」
やっと邦夫さんが追いついてきました。
「あっ、ごめんなさい...」
「あははは、びっくりしたろう、あんな所で...」
邦夫さんは、私を慰めるようにそう言いましたが、私は「大変なところに来ちゃった」と思いました。
<後日へ続きます>
直子
「ロシアの旅」(4) 赤と黒の夜
一階の奥の片隅にある小さなバーでした。五つばかりのテーブル席と五、六人でいっぱいになりそうなカウンター席があり、ほとんどの男女はカウンター席に集まっていて、小太りの中年のバーテンとしきりに何か話しているところでした。他には、入口側のテーブルに男が二人、奥のテーブルに一人。奥の男はかなり酔っているようでした。
邦夫さんと私は、真ん中のテーブルに座りました。黒っぽい粗末な木のテーブルに真赤なビニールレザーのソファ。テーブルには、小さな赤いスタンドが一つぼつんと置いてありました。
「まるで場末のバーだね...」
邦夫さんはまわりを見回しながらそうつぶやきました。
私はカウンターを背にして座りましたが、周囲の視線が気味悪くて、それでも半分うつむいたままあたりの様子を見ようと、入口の方に目をやりましたら、テーブル席の男二人と目が合って、あわてて視線をテーブルのスタンドに戻してしまいました。
邦夫さんは、私の頭越しにカウンターの方を見ていましたが、誰も注文を取りにきません。来る様子もありません。それでしかたなく邦夫さんは席を立ってカウンターへ行き、片言のロシア語で何か訊いておりました。
「直ちゃん、ソーセージぐらいしかないそうだけど、それでいいかい?」
「何でもいいです...」
私はそう言いながら振り向くと、今度はブロンドの若い女性と目が合ってしまいました。真赤な口紅に濃いブルーのアイシャドゥを大げさに塗り、赤黒いレザーの、それも下着が見えそうなくらい超ミニのスカートをはいておりました。でも、ロウ人形のように無表情です。女性は、邦夫さんと二言三言話した後、カウンターの奥へ入っていきました。
「ああ、こういう女性を娼婦というのかしら...」
そんなことを思いながら、ますます落ち着かない気分になってテーブルのスタンドに視線を落としておりましたが、入口の男たちの私の横顔を射るような視線が気になってしかたありません。
「ごめん、直ちゃん、ここしかないから仕方ないね」
邦夫さんは席に戻るなりそう言って、しきりににが笑を浮かべています。
まもなく例の女性がやってきて、小さなソーセージ二本とわずかばかりのサラダを載せたお皿二枚、それに大きなグラスに入ったビールを一つ無造作に私たちのテーブルに置きました。私は、バツが悪くて目を上げることができません。その女性のスラリと伸びた両脚だけが目に入りました。でも、とても趣味の悪い網タイツを履いていて、靴も悪趣味です。
私は早くここから逃げ出したくて、味も何もわからないままお皿の上のソーセージをまたたくまに食べてしまいました。すると、
「これも食べなさい」
邦夫さんは笑いながら自分のソーセージを私のお皿に載せます。
「えっ、もういいんです」
「お腹がすいているのは、直ちゃんだろ?」
「でも...」
「いいから、いいから、私はこれがあれば十分...」
邦夫さんは、そう言いながらビールを飲み干し、またビールを注文しています。そしてビールが来る間、深々とソファに身をしずめながら物珍しそうに店の中を見回しています。私には、先程から何か言いたそうに奥の席からうつろな視線を私たちに投げている酔っぱらいの男のことも気がかりでなりません。
例の女性がビールとジュースを持ってきて、また無造作に私たちのテーブルに置きましたが、今度は酔っぱらいの方へ行って何やらどなり始めています。その剣幕に私が思わず酔った男の方を見ていますと、
「お金がないなら、さっさと帰りなさいと言ってるんだよ」
邦夫さんは、笑いながら私にそう説明しました。
私がソーセージとサラダを食べ終わるのを見届けるかのように、邦夫さんはグラスに残っているビールを一気に飲み干しました。
「さあ、出よう」
私は救われたような気持ちになって、逃げるようにしてバーから出ました。そして邦夫さんが出てくるの待つでもなく、エレベータのあるロビーへと向かいました。途中のロビーのソファには、警察官のような制服姿の男たちが四、五人座っていて、一斉に私を見ています。腰には拳銃をつけています。私はなにか悪いことでもしているかのような気持ちで、そのままエレベータへと急ぎました。
「だめだよ、単独行動は...」
やっと邦夫さんが追いついてきました。
「あっ、ごめんなさい...」
「あははは、びっくりしたろう、あんな所で...」
邦夫さんは、私を慰めるようにそう言いましたが、私は「大変なところに来ちゃった」と思いました。
<後日へ続きます>
直子
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.