「ソウル」 - 1
投稿者: k_g_y_7_naoko 投稿日時: 2008/04/30 22:57 投稿番号: [33758 / 73791]
三年前の秋も終わろうとしていた頃、家内を夏に亡くし、気分もまだ滅入っていたとき、ひとりの男がめずらしく儂を訪ねて来た。儂があるところを定年退職し、その後縁あって数年ばかり役員をやっておった会社の男である。六十はとうに過ぎたこの男は、まだ現役で役員をやっておるという。大した会社ではないが、やっていることが特殊であったから、不況にもめげず、そこそこの利益はあげておった。
「今度、韓国へ行きますが、いかがですか、ごいっしょに?」
「ん? すまんが、韓国には興味ない」
「キムが今度CEOになったそうです。ご存じですよね、彼を?」
「ん?」
「何度も日本に来ていたのですが、いつも貴方にお会いできなくて残念がっておりました...」
そういえばそんな韓国人の男がおった。三十年も前のことである。当時、韓国の取り引き先が大失態をやらかしたもんだから、これも一度や二度ではないから、重役会で以後取り引き禁止との意見が大勢を占めておった。そんなとき、その韓国取引先の会長と会長のカバン持ちが日本にきた。会長は大した男ではなかったが、その会長のカバン持ちの若い男、キム某とか言ったが、妙に儂の目に止まった。我社の重役連の面前で、当の会長は平身低頭しておったが、空気は切り捨てる方向で固まっておった。キムという男は、その空気を察したらしい。
会長の言い訳も出尽くし窮したところで、そのキムとかいう男、一介の秘書であるが、いきなり床に土下座して儂を見据えると、何やら韓国語でまくし立てはじめた。韓国人が土下座することはよほどのこと、と聞いておったから、他の重役連が騒然としていても、そのままほって言いたいことを言わせた。その間、当の会長は蒼白な顔でオロオロしているばかりであった。キムは、言いたいことを言い終わっても、そのまま床にひざまずき儂から目をはずさない。この会社では、一介の役員にしか過ぎない儂からである。ここには、我社の社長もおれば、専務もおったが、何故儂を見据えておるのか、その真意が分からんかった。
すぐに、我社の社員が彼の言ったことを通訳しはじめた。要は、「このような失敗は二度と繰り返さない。私の命に代えて誓う。だからもう一度だけチャンスを与えてくれ」ということであった。社長と専務、そして他の役員たちのほとんどが、儂に注目した。
「いかがかな、社長、この韓国の会社にもこのように生きのいい社員がおるなら、もう一度だけ機会を与えても損はないと思うが...」
どういうわけか知らんが、この場で儂のこの意見が通ってしもうた。この時のキムの喜びようは尋常ではなかったな。後で彼に「なぜ儂ばかりを見据えた」と聞くと、「この場のご主人は、社長さんでもない、専務さんでもない、貴方様であると直感したからです」と答えおった。
どうやら、キムはそのことを今でも覚えておるらしい。
爺
「今度、韓国へ行きますが、いかがですか、ごいっしょに?」
「ん? すまんが、韓国には興味ない」
「キムが今度CEOになったそうです。ご存じですよね、彼を?」
「ん?」
「何度も日本に来ていたのですが、いつも貴方にお会いできなくて残念がっておりました...」
そういえばそんな韓国人の男がおった。三十年も前のことである。当時、韓国の取り引き先が大失態をやらかしたもんだから、これも一度や二度ではないから、重役会で以後取り引き禁止との意見が大勢を占めておった。そんなとき、その韓国取引先の会長と会長のカバン持ちが日本にきた。会長は大した男ではなかったが、その会長のカバン持ちの若い男、キム某とか言ったが、妙に儂の目に止まった。我社の重役連の面前で、当の会長は平身低頭しておったが、空気は切り捨てる方向で固まっておった。キムという男は、その空気を察したらしい。
会長の言い訳も出尽くし窮したところで、そのキムとかいう男、一介の秘書であるが、いきなり床に土下座して儂を見据えると、何やら韓国語でまくし立てはじめた。韓国人が土下座することはよほどのこと、と聞いておったから、他の重役連が騒然としていても、そのままほって言いたいことを言わせた。その間、当の会長は蒼白な顔でオロオロしているばかりであった。キムは、言いたいことを言い終わっても、そのまま床にひざまずき儂から目をはずさない。この会社では、一介の役員にしか過ぎない儂からである。ここには、我社の社長もおれば、専務もおったが、何故儂を見据えておるのか、その真意が分からんかった。
すぐに、我社の社員が彼の言ったことを通訳しはじめた。要は、「このような失敗は二度と繰り返さない。私の命に代えて誓う。だからもう一度だけチャンスを与えてくれ」ということであった。社長と専務、そして他の役員たちのほとんどが、儂に注目した。
「いかがかな、社長、この韓国の会社にもこのように生きのいい社員がおるなら、もう一度だけ機会を与えても損はないと思うが...」
どういうわけか知らんが、この場で儂のこの意見が通ってしもうた。この時のキムの喜びようは尋常ではなかったな。後で彼に「なぜ儂ばかりを見据えた」と聞くと、「この場のご主人は、社長さんでもない、専務さんでもない、貴方様であると直感したからです」と答えおった。
どうやら、キムはそのことを今でも覚えておるらしい。
爺
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.