乃木希典
投稿者: hendazo04 投稿日時: 2009/11/14 05:28 投稿番号: [153 / 178]
「将軍は天皇陛下に赤心を捧げていた。陛下の崩御とともに、もはや生きながらう責務は終わった。すなわち従容として自殺して逝ったのだ。将軍は、日本古来の理想主義の焔が、西洋文明との接触によって衰え来たったのを、あるいはこの殉死によってふたたび燃え立たしめることができようと、胸中ひそかに思っていたのかも知れぬ。とにかく将軍の生涯は、いかなる困難も危険も問うところではない。敢然身を挺して退かない男児の典型として、二つとないものである。
将軍は一切を甘受してなんらの不平もない。生を重んじるのはただ、忠義と尊敬とを集中するその対象に奉仕せんがためであった。
乃木大将にとっては、天皇は日本帝国の権化であり、最後に生命を天皇に捧げるのは、すなわち、日本帝国に捧げることであった。
将軍すでに自己の事業の終われるのを感じ、疾くも平安静寂の境に入るべきであったとして、その機会を熱望していたのである。
かくのごとき理想を抱いたかくのごとき人物が、今日のこの時代に現存したことは、吾人西洋の生活に育てられたものの愕かずにはいられないことである。偉大な人傑の生まれ出て、位人臣を極めたり、大望を達したりすることはある。しかしその影には、どことなく自己中心的思想の潜在することが多い。偉大なる愛国者の興起することもある。しかし満身ただ忠誠、個人的存在を没却して、純理想主義に立脚する点において、近世誰あってこの日本の古武士乃木大将に匹儔(ひっちゅう)することができよう。古代ギリシャ勃興期においては、こうした人傑の輩出したことがある。しかしそれは全く環境を異にした時代の人々であったのだ。
わが乃木大将は、その後半生を近代産業国の怱忙熱閙(そうぼうねっとう)の中に過した。その間に処して将軍は徹頭徹尾変わることなき、古のスパルタ人であった。文明の産出する最善のものは、採ってこれを用いることができた。
しかしいかなる国家的栄誉も、個人的私望も、祖先の樹立した古の武士道を服膺する、その鉄石の精神を動揺さすことはできなかった。
日本古来の理想主義は、深く将軍の胸底に燃えて、絶えて焔の細ることがなかった。
生きては純真忠誠、ひたすら天皇と祖国とに対する責務の一念を貫き、死してもまた純真忠誠、『土薄き磽地(いしじ)に落とす』べからざる教訓の種を遺した。吾人西洋に生まれ、齷齪(あくせく)としてただ財宝と地位と名聞とを追求して止まぬ間にも、しばらく退いて、かくのごとき人物によって表現せらるる所以の道を思うべきである。
日本帝国よりすれば、国民的理想の復興であり、諸外国からすればまた、個人的生活の上衣をかなぐり捨て、全生命を捧げて、世のため国のために奉公の義を全うせんと志し、その志を達すれば欣然として死に就くことのできる人物の、なお存在する所以を悟るべき、一大刺激となるのである」
スタンレー・ウォッシュバン 『乃木大将と日本人』講談社学術文庫1980
アメリカの新聞記者。日露戦争中に『シカゴ・ニューズ』紙特派員として日本陸軍第三軍に従軍し旅順―奉天の乃木大将を取材。第一次大戦では露軍に従軍した。
いやー、明治の人が訳したんだろうけど、英文ではどうだったんだろう。
将軍は一切を甘受してなんらの不平もない。生を重んじるのはただ、忠義と尊敬とを集中するその対象に奉仕せんがためであった。
乃木大将にとっては、天皇は日本帝国の権化であり、最後に生命を天皇に捧げるのは、すなわち、日本帝国に捧げることであった。
将軍すでに自己の事業の終われるのを感じ、疾くも平安静寂の境に入るべきであったとして、その機会を熱望していたのである。
かくのごとき理想を抱いたかくのごとき人物が、今日のこの時代に現存したことは、吾人西洋の生活に育てられたものの愕かずにはいられないことである。偉大な人傑の生まれ出て、位人臣を極めたり、大望を達したりすることはある。しかしその影には、どことなく自己中心的思想の潜在することが多い。偉大なる愛国者の興起することもある。しかし満身ただ忠誠、個人的存在を没却して、純理想主義に立脚する点において、近世誰あってこの日本の古武士乃木大将に匹儔(ひっちゅう)することができよう。古代ギリシャ勃興期においては、こうした人傑の輩出したことがある。しかしそれは全く環境を異にした時代の人々であったのだ。
わが乃木大将は、その後半生を近代産業国の怱忙熱閙(そうぼうねっとう)の中に過した。その間に処して将軍は徹頭徹尾変わることなき、古のスパルタ人であった。文明の産出する最善のものは、採ってこれを用いることができた。
しかしいかなる国家的栄誉も、個人的私望も、祖先の樹立した古の武士道を服膺する、その鉄石の精神を動揺さすことはできなかった。
日本古来の理想主義は、深く将軍の胸底に燃えて、絶えて焔の細ることがなかった。
生きては純真忠誠、ひたすら天皇と祖国とに対する責務の一念を貫き、死してもまた純真忠誠、『土薄き磽地(いしじ)に落とす』べからざる教訓の種を遺した。吾人西洋に生まれ、齷齪(あくせく)としてただ財宝と地位と名聞とを追求して止まぬ間にも、しばらく退いて、かくのごとき人物によって表現せらるる所以の道を思うべきである。
日本帝国よりすれば、国民的理想の復興であり、諸外国からすればまた、個人的生活の上衣をかなぐり捨て、全生命を捧げて、世のため国のために奉公の義を全うせんと志し、その志を達すれば欣然として死に就くことのできる人物の、なお存在する所以を悟るべき、一大刺激となるのである」
スタンレー・ウォッシュバン 『乃木大将と日本人』講談社学術文庫1980
アメリカの新聞記者。日露戦争中に『シカゴ・ニューズ』紙特派員として日本陸軍第三軍に従軍し旅順―奉天の乃木大将を取材。第一次大戦では露軍に従軍した。
いやー、明治の人が訳したんだろうけど、英文ではどうだったんだろう。
これは メッセージ 1 (hendazo04 さん)への返信です.
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