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司馬遼太郎の「台湾紀行」摘録について

投稿者: japancockroach 投稿日時: 2005/04/05 15:23 投稿番号: [8423 / 16409]
李登輝さんとは、むろん初対面であった。

逢う前から懐かしさを覚えていたのは、ひとつには、この人も私も、旧日本陸軍の予備役士官教育の第十一期生だったことである。

この人は総統になっていまった。六十一歳の時に、蒋経国晩年の「台湾化政策」によって副総統に指名され、農業経済という学問の世界から、政治に引き入れられたのである。望んだことではなかった。

そのころ、逸話がある。農民のデモが台北の政府にむかっているという状況下のことだった。

台北の役所でこのことを聞いたこの人は、涙があふれそうになったと言う。農民だった父君のこと、少年のころに接した農民たちのさまざまな顔をおもい浮かべ、あの沈黙の人達がでもをするようになったか、ということが、本来、でもに対応せねばならね自分の職を一瞬忘れさせたのである。

そういう李登輝さんが元首になってしまっている。

当然ながら、強大な権力を持っている。陸海空三軍の最高司令官でもある。

権力とは、何だろう。

科学はたいていのことを解明したし、これからもその方角で進むはずである。が、人間の現象のなかでの権力とセックスばかりは、永遠に解明されないに違いない。

小さいは係長の権力がある。また会社員にとっては、「社長の意向」という漠然とした表現が力を持つことが有る。そういう力は、大学の理学部や工学部で研究されることはなさそうである。

台湾では、戦後、大陸から引越して来た国家(中華民国)の権力が君臨し、本島人にとって断頭台の刃のようにおそろしかった。今の年配の人達で、いつこの刃が自分の首にむかっておちてくるか、と言う不安を一瞬でも持たなかった人は、いないはずである。

台湾独立というのは、台湾の中華民国の側からみても、大陸の中華人民共和国の側からみても、危険思想の最大のものである。なぜか、と考える必要も無い。

権力がそうれを好まないだけのことである。大陸中国の場合、もし台湾に独立の気配があるとみれば、ためらいなくせめてくるに違いない。

台湾では、ごく数年前まで、密告が奨励された。密告されるべき対象は、危険思想
(具体的には共産主義)のもちねしだった。当時の台湾当局は、こういうひとびとを匪・泥棒と呼んだ。

この場合、悪者がそこにいるのを知ってしかも密告しなkったというのも、罪になった。「知匪不報/匪・泥棒を発見して通報しない罪」というのだそうである。実例としては、一九七五年、在野の名士がその「罪」で逮捕された。

すべて、戒厳令の時代のことで、こんにちそういうことは一切ない。

(続き)
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