産経の反省 そして 啓発
投稿者: jgeilsbandfreek 投稿日時: 2007/10/28 06:41 投稿番号: [5299 / 10735]
ワシントン支局長・山本秀也
非難決議で見えた外交の差
2007.10.28 03:35
≪トルコ断罪、形勢逆転≫
旗色は急速に悪くなった。1915年に始まる「アルメニア人大虐殺」をめぐり、オスマン・トルコ帝国の歴史責任を追及する米下院の非難決議案である。決議案の表現はなかなか巧妙だが、要は継承政権である現在のトルコに旧悪を問う歴史の断罪劇である。
女性初の米下院議長を務める民主党のナンシー・ペロシ氏は、決議案が外交委員会を小差で通過(10月10日)した直後、「委員会を通ったのなら、必ず本会議に持ち込む」と息巻いていた。だが、党内の反旗にも遭遇し、17日には「審議できるかどうか静観したい」と態度を翻した。情勢不利とみた提案者のアダム・シフ下院議員は25日、ペロシ議長への書簡で、ついに本会議採決の先送りを要請した。
形勢逆転の理由は、反旗を翻した民主党のジョン・タナー下院議員らが、ペロシ議長に送った書簡が語りつくしている。
「オスマン帝国に矛先を向けた下院106号決議案は、北大西洋条約機構(NATO)で強力な同盟国である現在のトルコと米国との重要な関係に重大な結果を与えるでしょう。これはイラク、アフガニスタンにおけるわが軍の活動を脅かすものとなります」
戦地の米軍兵士を窮地に追い込む政治決断は、党派を問わず米国ではタブーだ。ブッシュ大統領が発した同様の警告には逆に勢いを得たペロシ議長だが、党内の有力議員から踏み絵を迫られ、折れざるを得なかった。
≪慰安婦決議とは対照的≫
トルコ政府は、決議案が本会議採択されれば、イラク駐留米軍の補給物資がその7割強を依存するトルコ領内のインジルリク基地の使用を「差し止める」と警告していた。決議案の処理が、イラク北部クルド人地域へのトルコ軍の越境攻撃を思いとどまらせる米側の説得工作の成否を左右することは明らかだ。
「人権」という名のもとに、論争のある「歴史」を一方的に断罪されてはたまらないとするトルコの政府、国民の揺るがない姿勢が、約90年前の惨劇とは縁もない米国議会流の正義の審判に待ったをかけた。このまま廃案となるなら、壮挙ともいえる。
ここで嫌でも思いだすのが、下院本会議で採択された慰安婦問題をめぐる対日非難決議だ。
結果において対照的となったふたつの決議案だが、その様相や狙いは、もう双子といえるほどの共通項にあふれている。
すなわち、(1)米国の忠実な同盟国が標的となっている点(2)数世代を隔てた歴史責任を現在の政府、国民に問う内容(3)歴史の細部に関する議論を避け、「人権」「女性」といった“錦の御旗”に等しい今日的な価値観へのすりかえ−などである。
いずれの決議案も、セミの冬眠なみに長く下院内でくすぶってきた。今年になって飛翔の機会を得た背景には、昨年の中間選挙における民主党の大勝がある。ブッシュ政権を追い詰める党略が見え隠れしている。
忘れてならないのは、提案議員らの選挙区に根を張る移民コミュニティーの存在である。
慰安婦決議を提案したマイク・ホンダ議員は、中国、韓国系などアジア移民のメッカであるカリフォルニア州サンノゼが地盤だ。アダム・シフ議員も、全米最大のアルメニア系人口(住民比率26・2%)を抱えるロサンゼルス近郊グレンデールの選出だ。
2年ごとに改選される下院議員は、選挙区への奉仕を絶対の使命とする。シフ議員は、形勢が不利に傾いた10月18日、「わが国が世界の道義的指導者であるなら、いつ、どこで起きたジェノサイド(組織的、計画的な大虐殺)をも見極める勇気をもつべきです」と声明を発し、アルメニア系住民へのアピールを忘れなかった。
≪米国だからこそ直言を≫
法案と違って、これらの決議案に法的な拘束力はない。民主党主導に移った今年は、9月末までで昨年1年間を上回る693件の決議案が下院に提出されている。米国社会には何の影響もないが、歴史の白州に引き出された他国民はたまらない。米国の戦略を支える同盟国には、裏切られたとの感情が残る。同盟の弱体化だ。慰安婦決議を許した対米戦略の反省は多々あろう。ここで指摘したいのは、当事国ですらない米国の議会が、後付けの正義を振りかざして歴史を裁く愚かさである。
歴史に仮託して日本をたたく米国経由の決議攻勢は、今後も繰り返されよう。日米同盟堅持に立つ限り、日本が自国の「重要性」や「魅力」を米国に向けて発信する国を挙げての表現力が求められる。トルコ外交の表現力を見ていて、つくづくそう思う。(やまもと ひでや)
正論です。
2007.10.28 03:35
≪トルコ断罪、形勢逆転≫
旗色は急速に悪くなった。1915年に始まる「アルメニア人大虐殺」をめぐり、オスマン・トルコ帝国の歴史責任を追及する米下院の非難決議案である。決議案の表現はなかなか巧妙だが、要は継承政権である現在のトルコに旧悪を問う歴史の断罪劇である。
女性初の米下院議長を務める民主党のナンシー・ペロシ氏は、決議案が外交委員会を小差で通過(10月10日)した直後、「委員会を通ったのなら、必ず本会議に持ち込む」と息巻いていた。だが、党内の反旗にも遭遇し、17日には「審議できるかどうか静観したい」と態度を翻した。情勢不利とみた提案者のアダム・シフ下院議員は25日、ペロシ議長への書簡で、ついに本会議採決の先送りを要請した。
形勢逆転の理由は、反旗を翻した民主党のジョン・タナー下院議員らが、ペロシ議長に送った書簡が語りつくしている。
「オスマン帝国に矛先を向けた下院106号決議案は、北大西洋条約機構(NATO)で強力な同盟国である現在のトルコと米国との重要な関係に重大な結果を与えるでしょう。これはイラク、アフガニスタンにおけるわが軍の活動を脅かすものとなります」
戦地の米軍兵士を窮地に追い込む政治決断は、党派を問わず米国ではタブーだ。ブッシュ大統領が発した同様の警告には逆に勢いを得たペロシ議長だが、党内の有力議員から踏み絵を迫られ、折れざるを得なかった。
≪慰安婦決議とは対照的≫
トルコ政府は、決議案が本会議採択されれば、イラク駐留米軍の補給物資がその7割強を依存するトルコ領内のインジルリク基地の使用を「差し止める」と警告していた。決議案の処理が、イラク北部クルド人地域へのトルコ軍の越境攻撃を思いとどまらせる米側の説得工作の成否を左右することは明らかだ。
「人権」という名のもとに、論争のある「歴史」を一方的に断罪されてはたまらないとするトルコの政府、国民の揺るがない姿勢が、約90年前の惨劇とは縁もない米国議会流の正義の審判に待ったをかけた。このまま廃案となるなら、壮挙ともいえる。
ここで嫌でも思いだすのが、下院本会議で採択された慰安婦問題をめぐる対日非難決議だ。
結果において対照的となったふたつの決議案だが、その様相や狙いは、もう双子といえるほどの共通項にあふれている。
すなわち、(1)米国の忠実な同盟国が標的となっている点(2)数世代を隔てた歴史責任を現在の政府、国民に問う内容(3)歴史の細部に関する議論を避け、「人権」「女性」といった“錦の御旗”に等しい今日的な価値観へのすりかえ−などである。
いずれの決議案も、セミの冬眠なみに長く下院内でくすぶってきた。今年になって飛翔の機会を得た背景には、昨年の中間選挙における民主党の大勝がある。ブッシュ政権を追い詰める党略が見え隠れしている。
忘れてならないのは、提案議員らの選挙区に根を張る移民コミュニティーの存在である。
慰安婦決議を提案したマイク・ホンダ議員は、中国、韓国系などアジア移民のメッカであるカリフォルニア州サンノゼが地盤だ。アダム・シフ議員も、全米最大のアルメニア系人口(住民比率26・2%)を抱えるロサンゼルス近郊グレンデールの選出だ。
2年ごとに改選される下院議員は、選挙区への奉仕を絶対の使命とする。シフ議員は、形勢が不利に傾いた10月18日、「わが国が世界の道義的指導者であるなら、いつ、どこで起きたジェノサイド(組織的、計画的な大虐殺)をも見極める勇気をもつべきです」と声明を発し、アルメニア系住民へのアピールを忘れなかった。
≪米国だからこそ直言を≫
法案と違って、これらの決議案に法的な拘束力はない。民主党主導に移った今年は、9月末までで昨年1年間を上回る693件の決議案が下院に提出されている。米国社会には何の影響もないが、歴史の白州に引き出された他国民はたまらない。米国の戦略を支える同盟国には、裏切られたとの感情が残る。同盟の弱体化だ。慰安婦決議を許した対米戦略の反省は多々あろう。ここで指摘したいのは、当事国ですらない米国の議会が、後付けの正義を振りかざして歴史を裁く愚かさである。
歴史に仮託して日本をたたく米国経由の決議攻勢は、今後も繰り返されよう。日米同盟堅持に立つ限り、日本が自国の「重要性」や「魅力」を米国に向けて発信する国を挙げての表現力が求められる。トルコ外交の表現力を見ていて、つくづくそう思う。(やまもと ひでや)
正論です。
固定リンク:https://yarchive.emmanuelc.dix.asia/1835396/dabaafl1b2_1/5299.html