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>落語

投稿者: trip_in_the_night 投稿日時: 2005/08/24 15:11 投稿番号: [28954 / 43168]
柳家金語楼   題目「兵隊」

立派な軍人   「職業落語家、山下敬太郎、職業落語家、山下敬太郎!」
  二、三度呼ばれて前に立ちます。
軍人   「キミはいい体格だ。落語家には珍しいいい体格だ・・」
  と、紙をよく調べて、
軍人   「ははァ、頭が少し悪いらしいが、食べのものぐあいらしい。よろしい、甲種合格!」
  と言われたときには、あッ、しま・・・じゃない、しめた!・・・と思って、それからは、どうかクジで当ればいいと思っていたら(当時は合格者から、さらに抽選で入営者を選抜した)、めでたく・・・当って、入営は麻布と思っていたら、朝鮮十九師団、羅南というところだと言われたときのうれしさ加減なぞは、実にうれしかったくらいのもので・・・。

  運送船は二日間、大浪にゆすぶられ、下関を出るときは知っていたが、それからは夢中・・・。目があいたら、さァ下船ー、清津という港に着きました。甲板へあがって見たら、どこの山も野も家も人も、真っ白です。でも、晴天だったので助かりました。
  また汽車に乗る、われわれの連中のほかは、みな朝鮮人ばかりです。ついに羅南へ!
  駅は小さく、ものさびしく、駅前にわれわれは並びました。迎いの将校が十数名、いよいよ羅南の地を踏んだわけです。町は家があるというだけのもの・・・。

  軍旗祭のときはうれしかったですネ。同じ連隊に須崎古兵どのがいる、これは清元の梅次くんです。それから、長唄の吉村伊四郎くんもいました。梅次くんの三味線で、伊四郎の歌で、私の踊りーー。当日中の大物として、見物の婦人をヤンヤと言わせたものです・・・もちろん朝鮮人です。わが舞踊に、初恋の胸を痛めた婦人も数あるが、チョウセン(所詮)はかなわぬ恋とあきらめたとみえて、その後、何とも言って来ませんでした。

・・・夜はものさびしい、ましてや軍隊の夜、朝鮮の夜、ひとり靴なんかみがきながら、帝都を思うとき、思わず涙こおるときもありました。
すると、後ろで、だれやら、”おいおい”と私を呼ぶ声がいたします。見ると、南無三!上等兵だ!!
上等兵   「官姓名を名のれ!」
金語楼   「ハイ、だれのでありますか?」
上   「他人のを名のるヤツがあるか、オマエのだ!」
金   「ハッ、陸、陸軍・・・」
上   「待て、リクリクとは何か!」
金   「ハイ、陸軍歩兵一等・・・」
上   「コラ、二等卒だ」
金   「ハッ、陸軍歩兵二等卒、山下敬太郎」
上   「どうも元気がないな、もとィ」
金   「陸軍歩兵二等卒、山下敬太郎」
上   「力が入っておらん、もとィ!」
金   「陸、軍、歩兵、二等卒、山下、敬、太、郎」
上   「ベソをかきならやるヤツがあるか、もとィ!!」
金   「海軍歩兵・・・」
上   「海軍じゃない、陸軍だ!!」

小島貞二編「落語名作全集」より抜粋
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