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金史良『天馬』

投稿者: bosintang 投稿日時: 2003/08/31 09:12 投稿番号: [1531 / 3669]
(黒川創編『〈外地〉の日本語文学選3   朝鮮』)
>私が泣きそうになった『光の中に』

  重層的な作品ですね。39年に発表,40年の芥川賞候補になったけど,受賞できなかったのは,40年6月号の『文藝春秋』に発表された,『天馬』のせいじゃないかな。

『天馬』は,37年以降,皇民化政策の推進とともに,文学者に対しても「時局文学」が強要される雰囲気の中で,朝鮮の日本語文壇の腐敗を風刺した作品。登場人物は,それぞれ実在の人物がモデルになっている。

  朝鮮での生活に破綻して日本に渡り,韓国の貴族にして天才作家という触れ込みで,女を渡り歩き,刃傷沙汰を起こしてふたたび朝鮮に舞い戻ると,今度は皇民化の旗振りをして,朝鮮文壇からは「朝鮮文化のダニ」と罵られている主人公,玄龍(モデルは大江龍之介=金文輯)。日本ではうだつが上がらず,箔をつけるために外遊に来た日本人作家の「田中」(田中英光もしくは田村泰次郎),元内地の官吏で朝鮮の事情を知らないまま時局雑誌の編集長となり,玄龍を利用するだけして使い捨てにする「大村」(「緑旗同盟」の津田剛),朝鮮に出稼ぎ根性で渡ってきた学者の「角井」(京城帝大教授の辛島驍),才能はないのにいっぱしの女性詩人を気取る「文素玉」(盧天命)…。

  金史良は,小説の中の若き朝鮮の評論家にこう語らせる。
「朝鮮語でなくては文学が出来ぬという訳ではない,僕は言語の芸術性のためにのみこのことを言っているのではない。何百年という長い間固陋な漢学の重圧のもとで文化の光を拝むことが出来なかったわれわれが,曲がりなりにでもだんだんとわれらの貴い文字文化に目覚めて来た今日ではないか。李朝五百年来の悪政の陰に埋もれた文化の至宝を発掘し,それによって過去の伝統を受け継ぐために,過去三十年間われらはどれほど血みどろな努力を払ってこれくらいの朝鮮文学でも打ち樹てたのであろうか。この文学の光,文化の芽をどういう理由で僕たちの手でまた葬るべきだと言うのか。だが僕はこれのためにまた徒に感傷的になって言うのでもない。実に重大な問題は朝鮮人の八割が文盲であり,しかも字を解する者の九十%が朝鮮文字しか読めないという事実なんだ!」

  東京帝大を出て,朝鮮と日本を行き来しながら,日本語と朝鮮語の両方で小説を書いた金史良の悩みを代弁している。

  42年,平壌に戻った金史良は,中国の抗日運動に加わるために,45年3月,朝鮮出身学徒兵慰問団にまじって中国に渡る。日本の敗戦後はそのまま北朝鮮にとどまり,朝鮮戦争には従軍作家として人民軍とともに南下。敗走中に死亡したとされる。

  「北越作家」だから,韓国では発禁になっていたはず。今は読めるのかな。
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