エルトゥールル号 1
投稿者: felix_ltd 投稿日時: 2002/06/29 09:01 投稿番号: [37164 / 99628]
歌山県の南端に大島がある。
その東には灯台がある。
明治三年(1870年)にできた樫野崎灯台。
今も断崖の上に立っている。
びゅわーんびゅわーん、猛烈な風が台風を打つ。
どどどーんどどどーん、波が激しく崖を打つ。
台風が大島を襲った。
明治二十三年九月十六日の夜であった。
午後九時ごろ、どどかーんと、風と波をつんざいて、真っ暗な海のほうから音が
した。灯台守(通信技手)は、はっきりとその爆発音を聞いた。
「何か大変なことが起こらなければいいが」灯台守は胸騒ぎした。
しかし、風と岩に打ちつける波の音以外は、もう何も聞こえなかった。
この時、台風で進退の自由を失った木造軍艦が、灯台のほうに押し流されてきた。
全長七十六メートルもある船。しかし、まるで板切れのように風と波の力でどん
どん近づいてくる。あぶない! 灯台のある断崖の下は「魔の船甲羅」と
呼ばれていて、海面には岩がにょきにょき出ている。
ぐうぐうわーん、ばりばり、ばりばりばり。船は真っ二つに裂けた。その瞬間、エンジンに海水が入り、大爆発が起きた。
この爆発音を灯台守が聞いたのだった。
乗組員は海に放り出され、波にさらわれた。また ある者は自ら脱出した。
真っ暗な荒れ狂う海。どうすることもできない。波に運ばれるままだった。
そして、岩にたたきつけられた。
一人の水兵が、海に放り出された。
大波にさらわれて、岩にぶつかった。
意識を失い、岩場に打ち上げられた。
「息子よ、起きなさい」
懐かしい母が耳元で囁いているようだった。「お母さん」 という自分の声で意識がもどった。真っ暗な中で、灯台の光が見えた。「あそこに行けば、人がいるに違いない」そう思うと、急に力が湧いてきた。
四十メートルほどの崖をよじ登り、ようやく灯台にたどり着いたのだった。
灯台守はこの人を見て驚いた。
服がもぎ取られ、ほとんど裸同然であった。顔から血が流れ、全身は傷だらけ、ところどころ真っ黒にはれあがっていた。
灯台守は、この人が海で遭難したことはすぐわかった。「この台風の中、岩にぶち当たって、よく助かったものだ」と感嘆した。「あなたのお国はどこですか」
「・・・・・・」言葉が通じなかった。それで「万国信号音」を見せて、初めてこの人はトルコ人であること、船はトルコ軍艦であることを知った。また身振りで、多くの乗組員が海に投げ出されたことがわかった。「この乗組員たちを救うには人手が要る」傷ついた水兵に応急手当てをしながら、灯台守はそう考えた。
「樫野の人たちに知らせよう」
灯台からいちばん近い樫野の村に向かって駆けだした。
電灯もない真っ暗な夜道。
人が一人やっと通れる道。
灯台守は樫野の人たちに急を告げた。
灯台にもどると、十人ほどのトルコ人がいた。
全員傷だらけであった。
助けを求めて、みんな崖をよじ登ってきたのだった。この当時、樫野には五十軒ばかりの家があった。船が遭難したとの知らせを聞いた男たちは、総出で岩場の海岸に下りた。だんだん空が白んでくると、海面にはおびただしい船の破片と遺体が見えた。
目をそむけたくなる光景であった。
村の男たちは泣いた。遠い外国から来て、日本で死んでいく。
その東には灯台がある。
明治三年(1870年)にできた樫野崎灯台。
今も断崖の上に立っている。
びゅわーんびゅわーん、猛烈な風が台風を打つ。
どどどーんどどどーん、波が激しく崖を打つ。
台風が大島を襲った。
明治二十三年九月十六日の夜であった。
午後九時ごろ、どどかーんと、風と波をつんざいて、真っ暗な海のほうから音が
した。灯台守(通信技手)は、はっきりとその爆発音を聞いた。
「何か大変なことが起こらなければいいが」灯台守は胸騒ぎした。
しかし、風と岩に打ちつける波の音以外は、もう何も聞こえなかった。
この時、台風で進退の自由を失った木造軍艦が、灯台のほうに押し流されてきた。
全長七十六メートルもある船。しかし、まるで板切れのように風と波の力でどん
どん近づいてくる。あぶない! 灯台のある断崖の下は「魔の船甲羅」と
呼ばれていて、海面には岩がにょきにょき出ている。
ぐうぐうわーん、ばりばり、ばりばりばり。船は真っ二つに裂けた。その瞬間、エンジンに海水が入り、大爆発が起きた。
この爆発音を灯台守が聞いたのだった。
乗組員は海に放り出され、波にさらわれた。また ある者は自ら脱出した。
真っ暗な荒れ狂う海。どうすることもできない。波に運ばれるままだった。
そして、岩にたたきつけられた。
一人の水兵が、海に放り出された。
大波にさらわれて、岩にぶつかった。
意識を失い、岩場に打ち上げられた。
「息子よ、起きなさい」
懐かしい母が耳元で囁いているようだった。「お母さん」 という自分の声で意識がもどった。真っ暗な中で、灯台の光が見えた。「あそこに行けば、人がいるに違いない」そう思うと、急に力が湧いてきた。
四十メートルほどの崖をよじ登り、ようやく灯台にたどり着いたのだった。
灯台守はこの人を見て驚いた。
服がもぎ取られ、ほとんど裸同然であった。顔から血が流れ、全身は傷だらけ、ところどころ真っ黒にはれあがっていた。
灯台守は、この人が海で遭難したことはすぐわかった。「この台風の中、岩にぶち当たって、よく助かったものだ」と感嘆した。「あなたのお国はどこですか」
「・・・・・・」言葉が通じなかった。それで「万国信号音」を見せて、初めてこの人はトルコ人であること、船はトルコ軍艦であることを知った。また身振りで、多くの乗組員が海に投げ出されたことがわかった。「この乗組員たちを救うには人手が要る」傷ついた水兵に応急手当てをしながら、灯台守はそう考えた。
「樫野の人たちに知らせよう」
灯台からいちばん近い樫野の村に向かって駆けだした。
電灯もない真っ暗な夜道。
人が一人やっと通れる道。
灯台守は樫野の人たちに急を告げた。
灯台にもどると、十人ほどのトルコ人がいた。
全員傷だらけであった。
助けを求めて、みんな崖をよじ登ってきたのだった。この当時、樫野には五十軒ばかりの家があった。船が遭難したとの知らせを聞いた男たちは、総出で岩場の海岸に下りた。だんだん空が白んでくると、海面にはおびただしい船の破片と遺体が見えた。
目をそむけたくなる光景であった。
村の男たちは泣いた。遠い外国から来て、日本で死んでいく。
これは メッセージ 1 (magekuri さん)への返信です.
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