短編小説「北の国」
投稿者: kowaijinsyu 投稿日時: 2003/03/14 21:04 投稿番号: [55742 / 232612]
うす明かりだが中国風デザインのやや広めの部屋に通された私の目の前にひとりの男が立っていた。
初めて会うその男は、わたしの方へゆっくりと歩みを進め、お互いの鼻先が触れ合うほどの
距離まで近づいてきた。
「大泉君、うちの若い者が迷惑を掛けてしまったようだね。」
その男は感情を抑えた声だった。
「しかし安心したまえ。若い者には私からキツーク叱っておいたから。」
メガネを掛け少々小太りではあるがどことなく恐怖を感じさせる男はそう言いながら
わたしの肩にあったホコリをポンポンと払い落とすような仕草をしてみせた。
「あ、ありがとうございます。」
わたしは身体が小刻みに震えるのを抑えることで精一杯だった。
その男に促されロシア製の古いテーブルを挟んでお互い向き合って着席させられた。
このテーブルを手に入れようとするとかなりの金額だと素人のわたしでも理解が容易かった。
「大泉君が誠意を示してくれたら全てが丸く収まるのだよ。」
「私が真実を語る男である証拠にあれは大泉君に返してあげよう。」
わたしは心の中で「やった」と歓喜の叫びをあげた。これでわたしは安心して帰れる。
「例の契約書は持ってきただろうね。」
メガネを掛け少々小太りではあるがどことなく恐怖を感じさせる男は
右手の人指し指を直角に天井へ向け前後へ振って見せた。
契約書を渡せという合図だ。
わたしは焦っていた。この機会しかない。
「契約内容は御指示のとおりとなっています。サインも済ませていますので御確認をお願い致します。」
男は契約書に視線をやることなく傍に居たもう一人の男に受け取るように促した。
これで全てが終わったとわたしは安堵した。
男は何故かわたしの左腕にある腕時計を気にしていた。これはアメリカ製のアウトドアタイプで
たまに故障するが方位計機能が内臓されていて方向音痴のわたしには必需品で24時間
身に付けている。
「大泉君。君の腕時計はこの部屋に敷き詰めた手織り絨毯と不釣合いのようだ。」
たしかに、わたしの目から見てもこの時計とペルシャ絨毯はお互いの主張が強く反発しあってしまう。
わたしは急いでこの部屋から出ることにした。
「大泉君。一つ忠告しておくが私は気分を害されるのが非情に嫌いなんだよ。解るねこの意味が。」
彼は実利を求めるためには何でもやってのけるタイプの恐ろしい男だ。
どんなことがあっても彼の指示とおりしなければわたしの命が危ない。
ゆっくりと1度だけ首を縦に振ってわたしは彼の元から去った。
(この物語は全てフィクションです。)
これは メッセージ 1 (mitokoumon_2002 さん)への返信です.
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