「爺の剣」 - (12)by直子
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2008/06/22 18:54 投稿番号: [165821 / 196466]
今夜は、三番勝負の最終日です。爺も打ってこなければ決着はつきません。爺はどんな打ちを見せるのでしょうか、昨夜も完敗の状態でしたから不安もありましたが、「よし!」と思う気持ちもありました。とにかく「私には私の剣道しかない!」と思い直して、鏡の向こうの私と対峙しておりました。どのくらいそうやっていたのでしょうか、ふいに鏡の向こうの私に爺の姿が重なりました。昨夜の爺の動きが鏡の向こうに見えるのです。
「ほう、今夜も早く来たか」
ふいに背後で高木師範の声がしました。手には木刀を持っています。
「今夜は、この木刀を使う」
「えっ!?」
「爺も木刀で立ち合う。ただし、爺は二刀を使う」
「えっ!?」
私は、何が何だかわけがわからなくなりました。
「防具は着けるのですか?」
「あははは、普段は着けずにやるが、着けた方がよいかな?」
すぐに思い浮かんだのは、木刀ではケガします、危ないということでした。高木師範はそんな私を見透かしたかのように、
「ま、防具は着けるとしよう」
「爺は?」
「爺も着ける」
それでも危ないと思いました。剣道形であれば約束動作ですから、真剣でもできますが、今回は勝敗を決する試合です。いくら防具を着けたからといっても、その衝撃は竹刀の比ではありません。
爺の○○流に木刀試合があることは知っていました。高段者の先生方の木刀試合を盗み見たことがあります。七段以上の先生方で、みなさん男性です。五段六段の先生方は、形だけ稽古してると聞いています。私は形すら稽古させてもらっていません。女人禁制なのです。
「なぜ私が..?」
戸惑っていますと、
「日本剣道形をイメージしなさい。君なら寸止めはできよう。攻撃部位はどこでもよろしい..」
「えっ?」
「あと30分ある。それまでに気持ちを整理しなさい」
高木師範は、それだけいうと奥へ入って行きました。
剣道形は、竹刀剣道とはまったく違います。飛び込んで打つ動作ではなく、斬る突く動作が主です。斬る場合は、腰を支点に半円を描くようにして斬ります。踏み込みも違います。足の使い方も違います。
高木師範が手渡してくれた木刀は、特製のものでした。振ると両手にしっくりきて、まるで真剣のようです。
やがて時間ぴったりに高木師範と爺が道場に入ってきました。爺は、大小二本の木刀を持っております。相変わらず私をチラっと見ただけで、面を着けはじめました。
「どうしよう..」
ものすごい不安と緊張が襲ってきます。爺は、すでに仕度を終え、私を待っています。急いで仕度をし、神前とお互いに礼をして、遠間まで歩み寄り、私は正眼に構えました。すると爺は、立ち止まって私に視線を向けると、身体の前にダラリと大小二本の木刀を下げました。
「あっ!」
なんと、いつか見たあの宮本武蔵の自画像そっくりな立ち姿でした。爺はそのままの姿でじいっと私を見据えています。
意を決して、私の方から徐々に間合いを詰めて見ました。そしてハッとしました。
「間合いがわからない!?」
剣先を交えていないので勝手が違うのです。私は一足飛びに後退し、また間合いを詰め直しました。爺はあいかわらず微動だにしません。
全神経を集中して一足一刀の間合いと覚しき間合いからさらに詰めると、爺の手首がピクリと動きました。
「斬られる!」
そう思ったのです。瞬間、私はまた一足飛びに後退しておりました。また間合いを詰めました。一見スキだらけと思ったその構えには、まったくスキがありません。いえ、構えではなく、爺の心にスキが見えないのです。突きに行っても、面に行っても、あの爺の演武の流れるような太刀筋が見えてきて、どうにも打ち込めないのです。
「タイム!」
「どうした?」
高木師範が私を覗き込んでいます。極度の不安と緊張が疑心暗鬼恐となって、おじけついたのです。
タイムをもらって、心を落ち着けよう、集中しなければと思いました。一分だけ許可してくれました。大きく深呼吸しました。
<続く>
ではちと出かける、御免。爺
「ほう、今夜も早く来たか」
ふいに背後で高木師範の声がしました。手には木刀を持っています。
「今夜は、この木刀を使う」
「えっ!?」
「爺も木刀で立ち合う。ただし、爺は二刀を使う」
「えっ!?」
私は、何が何だかわけがわからなくなりました。
「防具は着けるのですか?」
「あははは、普段は着けずにやるが、着けた方がよいかな?」
すぐに思い浮かんだのは、木刀ではケガします、危ないということでした。高木師範はそんな私を見透かしたかのように、
「ま、防具は着けるとしよう」
「爺は?」
「爺も着ける」
それでも危ないと思いました。剣道形であれば約束動作ですから、真剣でもできますが、今回は勝敗を決する試合です。いくら防具を着けたからといっても、その衝撃は竹刀の比ではありません。
爺の○○流に木刀試合があることは知っていました。高段者の先生方の木刀試合を盗み見たことがあります。七段以上の先生方で、みなさん男性です。五段六段の先生方は、形だけ稽古してると聞いています。私は形すら稽古させてもらっていません。女人禁制なのです。
「なぜ私が..?」
戸惑っていますと、
「日本剣道形をイメージしなさい。君なら寸止めはできよう。攻撃部位はどこでもよろしい..」
「えっ?」
「あと30分ある。それまでに気持ちを整理しなさい」
高木師範は、それだけいうと奥へ入って行きました。
剣道形は、竹刀剣道とはまったく違います。飛び込んで打つ動作ではなく、斬る突く動作が主です。斬る場合は、腰を支点に半円を描くようにして斬ります。踏み込みも違います。足の使い方も違います。
高木師範が手渡してくれた木刀は、特製のものでした。振ると両手にしっくりきて、まるで真剣のようです。
やがて時間ぴったりに高木師範と爺が道場に入ってきました。爺は、大小二本の木刀を持っております。相変わらず私をチラっと見ただけで、面を着けはじめました。
「どうしよう..」
ものすごい不安と緊張が襲ってきます。爺は、すでに仕度を終え、私を待っています。急いで仕度をし、神前とお互いに礼をして、遠間まで歩み寄り、私は正眼に構えました。すると爺は、立ち止まって私に視線を向けると、身体の前にダラリと大小二本の木刀を下げました。
「あっ!」
なんと、いつか見たあの宮本武蔵の自画像そっくりな立ち姿でした。爺はそのままの姿でじいっと私を見据えています。
意を決して、私の方から徐々に間合いを詰めて見ました。そしてハッとしました。
「間合いがわからない!?」
剣先を交えていないので勝手が違うのです。私は一足飛びに後退し、また間合いを詰め直しました。爺はあいかわらず微動だにしません。
全神経を集中して一足一刀の間合いと覚しき間合いからさらに詰めると、爺の手首がピクリと動きました。
「斬られる!」
そう思ったのです。瞬間、私はまた一足飛びに後退しておりました。また間合いを詰めました。一見スキだらけと思ったその構えには、まったくスキがありません。いえ、構えではなく、爺の心にスキが見えないのです。突きに行っても、面に行っても、あの爺の演武の流れるような太刀筋が見えてきて、どうにも打ち込めないのです。
「タイム!」
「どうした?」
高木師範が私を覗き込んでいます。極度の不安と緊張が疑心暗鬼恐となって、おじけついたのです。
タイムをもらって、心を落ち着けよう、集中しなければと思いました。一分だけ許可してくれました。大きく深呼吸しました。
<続く>
ではちと出かける、御免。爺
これは メッセージ 1 (messages_admin さん)への返信です.
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