対米全面テロ

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「テロの帝王」

投稿者: arisugawahiro_0 投稿日時: 2003/04/25 10:07 投稿番号: [156123 / 177456]
サダム   その秘められた人生   コン・コクリン著
SADDAM   The   Secret   Life
http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=3321
本紙掲載2003年04月20日
  中東の現実と独裁者を多角的に照射


  イラク戦争のテレビ観戦も終わった。爆撃を浴び炎上する街の光景にも、あきた。爆弾の下のたくさんの死も、気にならなくなった。

  サダム・フセインが死んだかどうかはわからない。しかし、オサマ・ビンラディンだって生死不明のまま、もはや話題にもならないではないか。サダムもすぐに忘却のかなたさ。

  そんな気分で、いささか時期遅れの感も抱きつつ本書を手に取った。著者は中東に詳しい英国のジャーナリスト。

  サブタイトルは米国版では「テロの帝王」と変えられた。ブッシュ流のレッテル張りだ。ただし、サダムが非道な人物であることは疑いない。著者も「主だった証人のほとんどは殺されてしまったか、怖くて証言できない」ため、評伝執筆は困難をきわめた、と明かす。

  サダムの生年は確かでない。一九三五年とも三九年ともいう。が、初めて人を殺した日付は、はっきりしている。五八年十月のことで、共産党員を待ち伏せ、銃撃した。以後、犠牲者は数知れない。彼の自慢は「目を見るだけで、相手が誠実か裏切り者かわかる」ことだった。

  希代の悪人が、なぜ延々と君臨できたのか。「衝撃と恐怖」という独裁者の常套(じょうとう)手段だけで権力を維持したのだろうか。

  暗殺を恐れて、サダムは影武者たちを仕立てたといわれる。しかし最初の目的は別だった。

  大統領に就任した当時、彼はこまめに町や村に足を運び、熱狂的に歓迎された。国民的な人気を集めたのだ。激務で出かける余裕がなくなると、治安警察は「そっくりさん」を探してきた。ひと目見るなりサダムは、自分の父親がお前の母親と浮気したに違いないと冗談を飛ばした。男は以後十年にわたって「ちょっとした公務」の代役を務めた。

  イラクは石油の国だ。けれども、その利権は長らく欧米企業が支配していた。イラクの国民にとって、これ以上の屈辱はなかった。時間をかけ策略をめぐらせて、石油産業の国有化を実現したのはサダムである。潤沢な資金は、過去の政権が果たせなかった施策にあてられた。

  科学技術の振興。農地の解放。教育の充実。サダムは識字運動への貢献でユネスコに表彰された。それに女性の解放。イラクでは一夫多妻制は事実上消滅したという。人びとは、国の歴史上初めて、純粋に国民の生活向上に努力してくれる政府が登場したと受けとめた。

  著者は、この独裁者をできるだけ多方面から照射し、中東現代史の中に位置づけようと努める。その結果、欧米側の決して自慢できない言動の数々も明らかにされる。「テロの帝王」と銘打って終わりにできる問題ではない。

  イラクのこれからを考えるとき、本書は時期遅れにあらず。それとゴシップが詰まっている点もいい。事の本質はしばしば、細部に宿る。

  評者・栗田亘(コラムニスト)

  (伊藤真訳、幻冬舎・481ページ・1700円)

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  Con   Coughlin   55年生まれ。英国サンデーテレグラフ紙編集主幹。
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