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「爺の剣」 - 6

投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/20 15:31 投稿番号: [50154 / 73791]
投稿者:拓


「どうしよう...」

ものすごい不安と緊張感が襲ってきます。爺は、すでに仕度を終え、私を待っています。急いで仕度をし、神前とお互いに礼をして、遠間まで歩み寄り、私は正眼に構えました。すると爺は、立ち止まって私に視線を向けると、身体の前にダラリと二本の木刀を下げました。あの宮本武蔵の自画像そっくりな立ち姿でした。爺はそのまま動こうとしません。

私の方から徐々に間合いを詰めて行きました。そしてハッとしました。間合いがわかりません。剣先を交えていないので勝手が違うのです。私は一足飛びに後退し、また間合いを詰めて行きました。爺は微動だにしません。

全神経を集中して一足一刀の間合いと覚しき間合いからさらに詰めると、爺の手首がピクリと動きました。
「あっ、切り上げられる!」
そう思ったのです。瞬間、私はまた一足飛びに後退しておりました。私は、また間合いを詰めました。一見スキだらけと思ったその構えには、まったくスキがありません。いえ、構えではなく、爺の心にスキが見えないのです。突きに行っても、面に行っても、あの爺の演武の流れるような太刀筋が見えてきて、どうにも打ち込めないのです。

「タイム!」
私は、審判の高木師範にタイムを要求しました。
「どうした?」

緊張が不安と疑心暗鬼恐に変わり、心に迷いが生じて、おじけついたのです。タイムをもらって、心を落ち着けよう、集中しなければと思いました。一分だけ許可してくれました。大きく深呼吸しました。

瞬く間に時間が過ぎ、また爺と道場の中央で対峙しました。遠間です。爺から間合いを詰められたら?   また、不安がよぎりました。竹刀の試合では、このように弱気になることは決してありません。爺は、そんな私の弱気を見透かしたように、すーっと出てきました。私は、出ている右足を後に下げながら、思わずすーっと左上段に振りかぶってしまいました。すると、爺の出足は止まり、一瞬でしたが「ほう..」とした表情を見せたような気がしました。

「あっ、この構えは有効だ!」と、とっさに悟りました。

上段の構えは、下段に対して有利です。私は、上段が得意とは言えませんが、試合で上段の名手という相手に相上段で立ち合って勝ったことがあります。上段からなら寸止めにも自信があります。

爺は、私の振りかぶった左拳に目を付けています。上段は火の構え、捨て身の構え、たった一撃にすべてを賭けます。勝つか負けるか、すべて私の一撃で決まります。そう思うと心が澄んできました。

今度は私からジリジリと間合いを詰めて行きました。爺は、相変わらず微動だにしません。機を見て一気に振り下ろせば、爺の構えからでは対応できないと思いました。だから、さらに間をつめようと機会をうかがいました。私が気と拳で振り下ろす仕草をしても、爺は動きません。

どのくらいたったのでしょうか、いえほんの数十秒であったのかもしれません、爺がすうーっと前にでようとしている気配を感じました。その瞬間、私は左足を床に滑らせるようにして大きく踏み出し、「エエイ!」とばかりにこん身を込めて一気に爺の頭上に木刀を振り下ろしました。いえ振り下ろす動作に入ったのです。

その瞬間、「あっ!」とおもいました。動作に一旦入ると、瞬時には止められません。心がその方向に流れてしまっているからです。1秒の何百分の1という瞬間の世界です。
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