「ソウル」 - 6
投稿者: k_g_y_007_naoko 投稿日時: 2009/02/16 16:57 投稿番号: [49716 / 73791]
投稿者:チー
「ソウル」 - 6
「先生、どうしても日曜にはお帰りになるんですか?」
キムがふいに聞いてきた。
「ああ、どうもこの国は好きになれんからな」
突然、ミラー越しのキムの目があの若者のころの噛みつくような目に変わった。
「何かお気にさわることでも..」
助手席のキムの女房は、旦那のこの表情の変化にいち早く気付いたようである。不安な眼差しで旦那をみていた。
「君のことではない。この国の大方の人間が好きになれんということじゃよ」
キムは少し考え込んでいたが、
「私の息子がさっき言ったことですか?」
「ん? ハングルはわからん。君の息子が何を言ったのか、そんなことではない。息子さんは君の若い頃によく似ておるではないか、違うか?」
キムは、少し安堵したようである。
「北村がどうしてもというから、来ただけじゃ。彼の話によると、君は儂に恩義を感じておるそうじゃが、あれはあくまでもビジネスの上でのこと。仕事と割り切って考えることじゃな。儂は、隠居してもう三十年の身。こうして招待してくれたことはありがたいが、ありがた迷惑なところも半分ある」
「えっ?」
ミラーのキムの顔がまた一瞬引きつった。
キムのことは、北村からよく聞いていた。キムは、実に分刻みに忙しい男で、ひとりですべてを采配しておるとのこと。ヨーロッパ、北米、そして今度は中国が相手であれば寝る間もなかろうに..。忙しい最中に、なにゆえこうして妻子まで連れてきて私につくろうのか、それも夕方とは言え、木曜日である。おまけに何人も社員を引き連れて空港まで来て、儒教精神を社員に誇示でもするつもりか? それとも欧米のマナーでもまねたつもりか? 自己満足か? 車も自ら運転しておる。その気配りは痛いほどに分かるが、キムの真意がわからんから、うぬぼれておるかも知らんから、本性をみたくて、あえて冷たくつっぱねてみた。
この国の為政者もおかしい。つい最近の反日デモには、まったく腹が立つ。ま、儂も頑固と言えば頑固、腹の虫が治まらんところも半分あった。それでも、内心ではキムの好意を痛く感じておった。
「先生、私が若いとき、先生にお会いしにいきましたこと覚えていらっしゃいますか?」
「ん? そういえばそんなことがあったな」
「あのとき、大変失礼をいたしましたが、私をドイツとの取り引きの担当に指名してくださいましたね。最初、分からなかったです。会社を中から変えようと意気込んでいたのですが、突然ドイツ担当、それも御社以外初めての外国企業との取り引きに回されて、とても面食らいました。御社から派遣されてきた北村さんはすごい人ですね。北村さんは、この会社の改革は俺がやるから、お前はドイツに専念しろ、と言いました。ドイツ企業からはとても怒られるし、工場もいうこと聞いてくれないし、クレームはつくし、御社とは比べものにならないくらい、大変でした。そんな私を北村さんはよく飲みに連れて行ってくださいました。そして分かりました。私は会長と奥様に気に入られていましたから、うぬぼれていたようです。それで、他の役員さん、会長のご親戚ですが、嫌われていたんです。そのことがよく分かりました。だから、先生のご配慮がこのときにはっきりと分かったんです。あのままでしたら、私はつぶれておりましたから..」
彼は一気にそう話すと、儂の反応をみるような眼差しをミラーに向けた。
「ん? そうだったかな? よくは覚えておらんが、海外に進出したいという君の案が妙に気に止まったから紹介したまでじゃよ。あとは、君が努力した結果であろう。ま、北村は私が気に入っておった社員でもあるがな。あっははは..」
キムは、前方に視線を移した。川向こうに一段と高いビルが見えてきた。
爺
「ソウル」 - 6
「先生、どうしても日曜にはお帰りになるんですか?」
キムがふいに聞いてきた。
「ああ、どうもこの国は好きになれんからな」
突然、ミラー越しのキムの目があの若者のころの噛みつくような目に変わった。
「何かお気にさわることでも..」
助手席のキムの女房は、旦那のこの表情の変化にいち早く気付いたようである。不安な眼差しで旦那をみていた。
「君のことではない。この国の大方の人間が好きになれんということじゃよ」
キムは少し考え込んでいたが、
「私の息子がさっき言ったことですか?」
「ん? ハングルはわからん。君の息子が何を言ったのか、そんなことではない。息子さんは君の若い頃によく似ておるではないか、違うか?」
キムは、少し安堵したようである。
「北村がどうしてもというから、来ただけじゃ。彼の話によると、君は儂に恩義を感じておるそうじゃが、あれはあくまでもビジネスの上でのこと。仕事と割り切って考えることじゃな。儂は、隠居してもう三十年の身。こうして招待してくれたことはありがたいが、ありがた迷惑なところも半分ある」
「えっ?」
ミラーのキムの顔がまた一瞬引きつった。
キムのことは、北村からよく聞いていた。キムは、実に分刻みに忙しい男で、ひとりですべてを采配しておるとのこと。ヨーロッパ、北米、そして今度は中国が相手であれば寝る間もなかろうに..。忙しい最中に、なにゆえこうして妻子まで連れてきて私につくろうのか、それも夕方とは言え、木曜日である。おまけに何人も社員を引き連れて空港まで来て、儒教精神を社員に誇示でもするつもりか? それとも欧米のマナーでもまねたつもりか? 自己満足か? 車も自ら運転しておる。その気配りは痛いほどに分かるが、キムの真意がわからんから、うぬぼれておるかも知らんから、本性をみたくて、あえて冷たくつっぱねてみた。
この国の為政者もおかしい。つい最近の反日デモには、まったく腹が立つ。ま、儂も頑固と言えば頑固、腹の虫が治まらんところも半分あった。それでも、内心ではキムの好意を痛く感じておった。
「先生、私が若いとき、先生にお会いしにいきましたこと覚えていらっしゃいますか?」
「ん? そういえばそんなことがあったな」
「あのとき、大変失礼をいたしましたが、私をドイツとの取り引きの担当に指名してくださいましたね。最初、分からなかったです。会社を中から変えようと意気込んでいたのですが、突然ドイツ担当、それも御社以外初めての外国企業との取り引きに回されて、とても面食らいました。御社から派遣されてきた北村さんはすごい人ですね。北村さんは、この会社の改革は俺がやるから、お前はドイツに専念しろ、と言いました。ドイツ企業からはとても怒られるし、工場もいうこと聞いてくれないし、クレームはつくし、御社とは比べものにならないくらい、大変でした。そんな私を北村さんはよく飲みに連れて行ってくださいました。そして分かりました。私は会長と奥様に気に入られていましたから、うぬぼれていたようです。それで、他の役員さん、会長のご親戚ですが、嫌われていたんです。そのことがよく分かりました。だから、先生のご配慮がこのときにはっきりと分かったんです。あのままでしたら、私はつぶれておりましたから..」
彼は一気にそう話すと、儂の反応をみるような眼差しをミラーに向けた。
「ん? そうだったかな? よくは覚えておらんが、海外に進出したいという君の案が妙に気に止まったから紹介したまでじゃよ。あとは、君が努力した結果であろう。ま、北村は私が気に入っておった社員でもあるがな。あっははは..」
キムは、前方に視線を移した。川向こうに一段と高いビルが見えてきた。
爺
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.