「ソウル」 13
投稿者: k_g_y_7_naoko 投稿日時: 2007/09/26 23:52 投稿番号: [22992 / 73791]
女の従業員が木の鉢に入れた白い飲み物を2つ持ってきた。
見るといかにもドブロクか馬乳酒のようである。キムは、テーブルに置かれた飲み物をしきりに説明したが、要は片方がごく普通のマッコリ、もう片方には炭酸が入っているということであった。
「普通のマッコリからためしてみたい」
儂がそう言うと、キムは木のしゃもじで鉢の中のマッコリをゆっくりとかき回しはじめた。それを見いるうちに、ふと山下のことが脳裏をかすめてしもうた。
遠い昔のことである。儂は、南方のある小さな部隊へ飛ばされた。若気のいたりもあって、ま、儂の性格でもあったが、上官にいちいちたてつくもんだから、睨まれて内地勤務から南方軍の末端部隊へ飛ばされたのである。着任して間もなく、部下たちがささやかな宴を開いてくれた。部下といっても儂より年上ばかりの海千山千の古参兵たちが多かった。宴がはじまろうというとき、軍服の中になにやら大事そうに抱えている兵隊が儂のところに来て、抱えていたものを出した。一升瓶である。瓶の底、三分の一ほどが白く濁っていた。兵隊は山下といった。東北の造り酒屋の息子であるという。跡取りの兄が病死したから、残った彼が父親の造り酒屋を継がねばならないといっておった。上の前歯が口も閉まらんほど出ておったから、皆は「出っ歯」と呼んでおったが、別に気に止める風でもない。見れば見るほどひょうきんな顔立ちである。山下は一升瓶を慎重に傾けると、儂の湯飲みに上澄みを半分ほど注いだ。
「何かな?」
「我が隊秘蔵のドブロクであります!」
「ほう、そうか」
儂のこの一言で部下たちの顔に安堵が走った。どうやら、儂がどう反応するかヒヤヒヤしておったらしい。上官に許可なく内緒で酒造りとはもってのほか、軍紀違反であるからな。だが、秘密にしていてもいずれバレることであるから、皆で相談して出すことにしたらしい。儂の前任者は頭は切れるが異常に几帳面で四角四面な男であったとのこと。そこがかわれて本隊へ栄転したが、反対に素行不良で飛ばされてきた儂は、古参兵たちからすれば業しやすいとでも思ったのか、見下しておったのかわからんが、彼らには受け入れやすかったらしく、この際皆で賭けてみようということになったらしい。
山下はしきりに手で「さあ、どうぞ」とばかりに勧める。一口なめてみたが、実に奇妙な味である。だが、酒には違いなかった。当時は、米も味噌醤油も十分あったが、日本酒は貴重品である。部下たちは、儂の反応を息をこらして見ておる。部下たちの手前、一気に飲みほした。
「いかがでありますか?」
「うまい!」
するとやんやの喝采が巻き起こった。山下はと見ると、出ておる歯をさらに出しては、しきりにはにかんでおる。うまいとは決していえん酒であったが、部下たちの好意が気に入ったし、世辞も大いに交じってそう言ったまでである。かなり度が強く、喉の奥にキリッときて、すぐに空きっ腹の胃がほてった。久しぶりの酒である。山下は、「では..」といいながら上澄みを儂の湯飲みになみなみ注ぐと、今度は一升瓶を振って白いもんを混ぜ合わせ、皆に注いでまわった。
宴も進み隠し芸が出た。実に芸達者が多い。山下は相方と組んで夫婦漫才をやった。女房役である。女っ気のない部隊であるから、山下のなよなよした仕草は大いに受け、大いに盛り上がった。
ここは、戦地とはいえまことに平穏である。戦争しているなんてことも忘れるくらいに平穏である。たまにはるか上空を飛び去る機影を見るくらいで、あとは南方特有の高熱と下痢の兵隊がときたま出るくらいであって、事件といえる事件もない。
そんなある日、明け方から部下たちと作業しておると、
「敵機だあ〜!」
古参のひとりが叫んだ。彼は、沖合はるか上空を指差して叫んでいる。見ると大編隊である。あの数と方角からして、友軍機ではないとすぐに分かった。やがて編隊の一部が沖合で急降下をはじめた。敵機の方角に先程から人指し指をかざして見ていた彼の古参兵が、「こっちへ来ます!」という。
「ん、そうか?」
「はい、間違いありません!」
彼の説明によると、立ててかざした人差し指から機影がズレるとこっちにはこないが、ズレないからこっちに向かっているという。儂もやってみたが、なるほどズレない。騒然となった。編隊の主力は本隊方向に向かっておる。儂からの指示を待つまでもなく、彼の古参兵と何人かがすぐさま連絡に走った。
その数、数十機であろうか。我々目指して一目散に飛んできおる。
爺
見るといかにもドブロクか馬乳酒のようである。キムは、テーブルに置かれた飲み物をしきりに説明したが、要は片方がごく普通のマッコリ、もう片方には炭酸が入っているということであった。
「普通のマッコリからためしてみたい」
儂がそう言うと、キムは木のしゃもじで鉢の中のマッコリをゆっくりとかき回しはじめた。それを見いるうちに、ふと山下のことが脳裏をかすめてしもうた。
遠い昔のことである。儂は、南方のある小さな部隊へ飛ばされた。若気のいたりもあって、ま、儂の性格でもあったが、上官にいちいちたてつくもんだから、睨まれて内地勤務から南方軍の末端部隊へ飛ばされたのである。着任して間もなく、部下たちがささやかな宴を開いてくれた。部下といっても儂より年上ばかりの海千山千の古参兵たちが多かった。宴がはじまろうというとき、軍服の中になにやら大事そうに抱えている兵隊が儂のところに来て、抱えていたものを出した。一升瓶である。瓶の底、三分の一ほどが白く濁っていた。兵隊は山下といった。東北の造り酒屋の息子であるという。跡取りの兄が病死したから、残った彼が父親の造り酒屋を継がねばならないといっておった。上の前歯が口も閉まらんほど出ておったから、皆は「出っ歯」と呼んでおったが、別に気に止める風でもない。見れば見るほどひょうきんな顔立ちである。山下は一升瓶を慎重に傾けると、儂の湯飲みに上澄みを半分ほど注いだ。
「何かな?」
「我が隊秘蔵のドブロクであります!」
「ほう、そうか」
儂のこの一言で部下たちの顔に安堵が走った。どうやら、儂がどう反応するかヒヤヒヤしておったらしい。上官に許可なく内緒で酒造りとはもってのほか、軍紀違反であるからな。だが、秘密にしていてもいずれバレることであるから、皆で相談して出すことにしたらしい。儂の前任者は頭は切れるが異常に几帳面で四角四面な男であったとのこと。そこがかわれて本隊へ栄転したが、反対に素行不良で飛ばされてきた儂は、古参兵たちからすれば業しやすいとでも思ったのか、見下しておったのかわからんが、彼らには受け入れやすかったらしく、この際皆で賭けてみようということになったらしい。
山下はしきりに手で「さあ、どうぞ」とばかりに勧める。一口なめてみたが、実に奇妙な味である。だが、酒には違いなかった。当時は、米も味噌醤油も十分あったが、日本酒は貴重品である。部下たちは、儂の反応を息をこらして見ておる。部下たちの手前、一気に飲みほした。
「いかがでありますか?」
「うまい!」
するとやんやの喝采が巻き起こった。山下はと見ると、出ておる歯をさらに出しては、しきりにはにかんでおる。うまいとは決していえん酒であったが、部下たちの好意が気に入ったし、世辞も大いに交じってそう言ったまでである。かなり度が強く、喉の奥にキリッときて、すぐに空きっ腹の胃がほてった。久しぶりの酒である。山下は、「では..」といいながら上澄みを儂の湯飲みになみなみ注ぐと、今度は一升瓶を振って白いもんを混ぜ合わせ、皆に注いでまわった。
宴も進み隠し芸が出た。実に芸達者が多い。山下は相方と組んで夫婦漫才をやった。女房役である。女っ気のない部隊であるから、山下のなよなよした仕草は大いに受け、大いに盛り上がった。
ここは、戦地とはいえまことに平穏である。戦争しているなんてことも忘れるくらいに平穏である。たまにはるか上空を飛び去る機影を見るくらいで、あとは南方特有の高熱と下痢の兵隊がときたま出るくらいであって、事件といえる事件もない。
そんなある日、明け方から部下たちと作業しておると、
「敵機だあ〜!」
古参のひとりが叫んだ。彼は、沖合はるか上空を指差して叫んでいる。見ると大編隊である。あの数と方角からして、友軍機ではないとすぐに分かった。やがて編隊の一部が沖合で急降下をはじめた。敵機の方角に先程から人指し指をかざして見ていた彼の古参兵が、「こっちへ来ます!」という。
「ん、そうか?」
「はい、間違いありません!」
彼の説明によると、立ててかざした人差し指から機影がズレるとこっちにはこないが、ズレないからこっちに向かっているという。儂もやってみたが、なるほどズレない。騒然となった。編隊の主力は本隊方向に向かっておる。儂からの指示を待つまでもなく、彼の古参兵と何人かがすぐさま連絡に走った。
その数、数十機であろうか。我々目指して一目散に飛んできおる。
爺
これは メッセージ 1 (may7idaho さん)への返信です.